▽ そう呼んで 9
「本当に契約している魔獣として当たり前のことをしているだけなら、あんな優しい言葉をかけてくれないと思いますが」
バッと顔を上げたダンテの目を、瑠璃色の目が真っ直ぐに見つめる。
「魔獣にだって、感情はあります。契約した魔女の命令であれ、やりたくないことはやらない者もいるでしょう。それに、私はダンテさんに命令をしたことは一度もありません。あくまでお願いでしかない。それでも聞いてくれるのは、ダンテさんが優しいからじゃないですか?」
「……」
「…優しいんですよ、ダンテさんは」
そう言い切って、リアラはニコッと笑う。
「さ、帰りましょう。晩ご飯を食べた後、そのティーカップを使って紅茶を淹れますね」
家のある大木に向かって歩き出したリアラは、何か思うことがあったのか、すぐ足を止め、ダンテの方を振り返る。
「…いつもありがとう、ダンテ」
「!」
すぐにくるりと踵を返してかけ足で歩き出したリアラの耳は真っ赤で、呆気に取られていたダンテはクッ、と笑いを零す。
(本当、不思議で面白いやつだな)
控えめで落ち着いているかと思えば、思いもしないことでこちらを驚かせる。しばらくは退屈しないで済みそうだ、そう思いながら、ダンテはリアラの後を追って歩き出した。
***
2017.08.01
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