▽ そう呼んで 8
『着いたぞ』
「ありがとうございます」
ダンテの背からゆっくりと降り、リアラは荷物を持ち直す。人の姿に戻ったダンテはリアラの隣りに立つ。
「それだと持ちにくいだろ、そっち持つぞ」
「あ、こっちは大丈夫です。代わりにこっちを持ってもらえますか?」
食材の入った紙袋を持つというダンテの申し出をやんわりと断り、代わりにリアラが持つように頼んだのは腕にかけていた持ち手のついた白い紙袋。それはリアラが食器を造っている店で頼んでいた物で、ダンテは首を傾げながらもそれを受け取る。
「よかったら、ここで開けてみてくれませんか?」
「ここでか?」
「はい」
家はすぐそこなのだから入ってからでもいいのではないかと思うが、彼女がわざわざ言うのなら何かあるのだろう。ダンテは紙袋の中に手を入れ、入っていた木の箱を開ける。
「!」
中に入っていた物に、ダンテは目を見開く。
中に入っていたのはティーカップだった。白地に赤と金の縁取りが入った物で、セットのソーサーの中央にも円を描くように同じ縁取りが施されている。
「どうですか?」
首を傾げてじっとこちらを見つめるリアラに、未だ驚きが収まらないまま、ダンテは尋ねる。
「お前、これは…」
「先日のお礼を言いにお店に行ったあの時、赤い縁取りの施されたティーカップを探してもらえるように頼んでおいたんです。いくつか在庫があったみたいで、その中から私がいいと思う物を選んでみたんですけど…」
赤が好きっておっしゃってましたよね?とリアラは言う。確かに赤が好きだと言ったことはあるが、それを覚えていたのか。
「わざわざ俺のために、か?」
「はい。いつもいろいろと手伝ってもらったり、助けてもらったりするので、そのお礼に」
今まで数え切れない程の契約をしてきて、仕方なくやることはあれど、他の魔獣から守ることも、命令されればやることも、全て当たり前のこととしてやってきた。それなのに、彼女はそれにお礼をすると言う。ダンテが黙っていると、機嫌を損ねていると勘違いしたのか、リアラが不安げな顔をして聞いてくる。
「…要らなかった、ですか?」
「…契約している魔獣として当たり前のことを、しているだけなのにか?」
唐突に口を開いたダンテの言葉にリアラは目を瞬かせると、くすっと笑って告げた。
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