▽ そう呼んで 2
エレベーターである鳥籠から降り、リアラとダンテは地に足をつける。柔らかな風が吹き、二人の髪を撫でていく。
「風が心地いいですね」
「ああ。飛ぶともっと気持ちいいぜ」
「ふふ、それはすてきですね」
じゃあ行きましょうか、そう言って杖を持ち上げたリアラをダンテは呼び止める。
『リアラ』
リアラが隣りを見ると、いつの間にか魔獣の姿に戻っていたダンテがこちらを見上げて言う。
『乗ってみるか?』
「え?」
『魔女が契約した魔獣に乗るなんて普通だろ?けど、お前は何も言わないから、遠慮してるのかと思って』
興味はあるのか何度もこっちを見てたけどな、とダンテに言われ、リアラは恥ずかしそうに視線を逸らす。
「それはそう、ですけど…。人の姿を知ってたら、乗り辛くて…」
ダンテの言う通り、魔女が契約した魔獣に乗るなんて普通のことだ。だが、リアラは契約したからと言ってダンテを従わせたいわけではないし、乗り物にしたいわけでもない。それに、人の姿を知っているから、その姿を思い出して余計に乗り辛いのだ。リアラの言葉にそうか?とダンテは首を傾げる。
『他の魔女は人型の姿を知ってても普通に乗ってたけどな…不思議なやつだな、お前』
「変わってます、よね…」
『いいんじゃないか?むしろ、お前らしいよ』
「私、らしい…」
『?どうかしたか?』
「いえ…そう言ってもらえたのは、初めてで」
何だか嬉しいんです、そう言って照れたように笑うリアラにダンテは目を見開くが、すぐに優しい笑みを浮かべる。
『…そうか』
「はい」
『とりあえず行くか。ほら、遠慮しないで乗れ』
「…じゃあ、お邪魔します」
顎で背を指し示し、尻尾を振って促すダンテにぺこりと頭を下げ、リアラはそっとダンテの背に乗る。跨るのは何だかためらわれるので、杖に乗って飛ぶ時と同じように、身体を横向きにして、顔だけを正面に向けるようにする。
『じゃあ、行くぞ』
「はい」
ダンテは翼を広げると、トッ、と軽やかに地面を蹴る。宙に浮いたその身体は風に乗り、町へと向かって動き始めた。
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