▽ そう呼んで 1
「あ、もうこんな時間。そろそろキリエのところに行かないと」
壁に掛けられた時計に目をやり、ルティアは言う。
穏やかな陽射しが注ぐ昼下がり、リアラとルティアは紅茶を飲みながらたわいもない話を楽しんでいた。仕事のことからプライベートなことまで、いろいろと。時間が経つのはあっという間で、ルティアは次の配達の時間が迫っていた。
「本当だ、もうこんな時間。ごめんね、ルティア。こんな時間まで…」
「いいよ、楽しかったから。それに少し飛ばせば余裕だし。そうだ、そろそろ頭痛薬に使う薬草がなくなりそうなの。お願いしてもいいかな?」
「わかったわ。10個で足りる?」
「うん、来週お願いね」
「うん」
白い外套を着て、青い三角帽子を被り、杖とバスケットを持ったルティアは玄関に向かう。見送りのためにリアラも彼女についていく。
「外まで見送るよ」
「ここまででいいよ、紅茶で充分もてなしてもらったし」
「そう?ルティアがそういうなら…」
「うん。じゃあね、リアラ」
「うん、気をつけて。キリエにもよろしく伝えておいてくれるかな?」
「わかった」
手を振るルティアに、リアラも手を振り返す。それから数分後、もてなしに使っていた食器を洗っていたリアラは背後で扉の開く音に気づく。
「ただいま、リアラ」
「お帰りなさい、ダンテさん」
リアラが後ろを振り返ると、水の入った桶と小さな包みを持ったダンテがいた。洗い終えたティーポットをシンク横に敷いていた布巾の上に置き、リアラはダンテを出迎える。
「水、汲んできたぞ」
「わざわざありがとうございます。あれ?その包み、どうしたんですか?」
「ああ、これか?水を汲みに行ったら町のやつが釣りをしてるのに会ってな、いつもリアラに世話になってるからってわけてくれたんだ」
そう言ってダンテが手渡してくれた包みは大きな葉に包まれていて、微かに魚の匂いがする。
「お魚、ですか」
「ああ。鼻が効くんだな」
「効きすぎるのも困りものですけどね。後でお礼を言わなきゃ…ダンテさん、お魚をくれた方の顔は覚えてますか?」
「ああ。前にも釣りをしてるところに会ったことがあるからな」
「なら、後で町で会ったらお礼を言ってきますね。ちょうど町に買い物に行こうと思っていたので」
「俺もついて行こうか?」
「え、でも…水を汲みに行ってもらったばかりなのに…」
「これくらいなら大したことじゃない。それに、町にはまだ数える程しか行ったことがないからな、いろいろと教えてくれよ」
「そうでしたね…わかりました、片づけを終えたら、準備をして行きましょうか」
頷き、リアラはダンテに優しく微笑みかけた。
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