▽ 仕事以上の 9
「………」
杖に乗って空を飛びながら、リアラは物思いに耽る。
(返事も聞かないで帰って…私、最低だ)
彼女は自分を呼び止めようとしていた、その声が、聞こえていたのに。
(それに、ああやって自分のことを話したけど…私以外にもそういった境遇の人はいるじゃない)
あの屋敷で会ったバージルもそうだ。魔獣スパーダと魔女エヴァの子であり、有名な五兄弟の内の一人。五兄弟の別称は話で聞いていたから、彼が肯定した時にすぐわかった。
(彼だってきっと、大変だったのに。私だけ大変みたいな言い方…)
考えれば考える程、自分が嫌になる。はぁ、とリアラはため息をつく。
(明日、ルティアさんにお詫びの手紙を出さなきゃ…キリエにも、謝らなきゃ…)
「余所見をしていると怪我をするぞ」
「!」
突然背後から聞こえた声に乗っていた杖を停止させ、リアラは後ろを振り返る。先程、屋敷で会った黒髪の女性が宙に浮いてこちらを見ていた。
「死神さん…」
「あの後散歩に出たらたまたまお前を見かけてな」
リアラの目の前に移動すると、死神は腕を組む。
「なぜそこまで気にする。恥じるものでもないだろうに」
「…もちろん、父と母のことは尊敬していますし、誇りに思っています。ただ、私がいることで周りの方々に迷惑をかけてしまうのは望みません」
「迷惑なんて生きていれば誰でもかけるだろう」
「…私の場合は、大きすぎます」
そう返したリアラは、微かな気配に気づく。下を見やると、茶色をしたドラゴンが森の中で倒れていた。先程、屋敷にいた時に感じた気配と似ている。まだ仲間がいたのか。
「ああ、彼奴か。散歩をしている最中に視界に入ってきて目障りだったんでな、蹴り飛ばしておいた」
「…私を、追ってきたのを倒してくださったんですね」
「何のことだ?」
死神は素知らぬふりをしているが、おそらく当たっているだろう。ああ、もう嫌だ。
「…すぐに、ここから去ります。ご迷惑をおかけしました。それでは」
そう言い残し、リアラは静止させていた杖を再び動かす。速度を上げる魔法をかけたのか、その姿はすぐに見えなくなってしまった。
「難儀な奴だな…」
リアラの消えた先を見つめ、死神は一つ、ため息をついた。
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