▽ 仕事以上の 8
「…あの、リアラさん」
少女の声にはっとし、リアラは顔をあげる。ルティアがこちらを心配そうに見ていて、リアラは自己嫌悪に陥る。
(何をやってるのよ、私は…依頼主である彼女を置いて、話をするなんて…)
「えっと、その…」
「…大変失礼いたしました。依頼主であるルティアさんを置いて話をしてしまい、申し訳ございません。先輩魔女として、失格ですね」
「いえ、そんな…」
「先程の質問に答えていませんでしたね。なぜ、魔獣の気配がわかったか…先程、バージルさんに答えたものが答えとも言えますが、もう少し詳しく説明しましょう」
姿勢を正し、リアラは目の前の少女を真っ直ぐに見つめる。
「私は氷の属性の魔獣の父と木の属性の魔女の母を両親として生まれました。魔獣と魔女の子がどういう扱いを受けてきたか…ご存知ですか?」
「知識としては、知っています」
「そうですか、なら説明は必要ありませんね。魔獣と魔女の子はその希少な存在ゆえ、狙われやすいんです。…特に、私のように魔女となった存在は」
「…っ」
「なので、今回のように魔獣に狙われることはよくあります。ほぼ毎日、と言ってもいいですね。…その中で、この能力(ちから)には、何度も助けられてきました。父のおかげ、と言っても過言ではありません」
「父のおかげ、ということは…」
「魔獣が気配を感じ取れることはご存知ですね?私の父は、気配を感じ取ることに長けていました。遠くからでも魔獣の強さと数がはっきりとわかる程に。…私は、父からその能力(ちから)を受け継ぎました。父程はっきりとは感じ取れませんが」
「そう、なんですか…」
「…自分で言うのもどうかと思いますが」
一呼吸置き、リアラは微笑む。だが、ルティアには彼女の表情は悲しそうに見えた。
「私にはあまり、関わらない方がいいと思いますよ。仕事ならまだしも、プライベートで関わることはお勧めしません」
「リアラさん…」
「…そろそろ、失礼しますね。また、魔獣が来ないとも限りませんから。ご迷惑をおかけしてしまったので、見送りは結構です」
「あ…」
深く頭を下げたリアラは早足で扉に向かう。呼び止めようと立ち上がりかけたルティアの肩に手を置き、死神は首を振る。今はそっとしておけ、と。
「……」
パタン、と静かに閉まった扉を、ルティアはただ見つめるしかなかった。
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