▽ 気遣いの意味 11
「いい風…」
「けど、少し寒いな。悪かったな、上着も着れないままで散歩に連れ出して」
「ううん、大丈夫。ダンテがこうやって気遣ってくれるもの」
ふるりとリアラは首を振る。
ダンテに誘われて夜の散歩に出たリアラは彼と一緒に家のある森を回るように飛び、今は大きな木の上、枝の一つに腰かけて休んでいた。茂る葉の間から見える空にはたくさんの星が光り輝いている。最初はダンテの隣りに座ったのだが、風の冷たさによって身体が冷えることを心配したダンテにすぐ様、膝の上に乗せられてしまった。この体勢を恥ずかしいと思いつつも、どこか安心してしまって。だから、あえて何も言わずに身体を預けている。
「コートの裾、羽根の邪魔になってない?」
「ああ、大丈夫だ。後ろに切れ目が入ってるんだな、飛んでる時も動きやすくて助かる」
「!そっか、よかった…!羽根や尻尾を出しても大丈夫なようにコートの丈は腰辺りまでにしたんだけど、それでも引っかかっちゃうかな、って思って、後ろに少し深めに切れ目を入れてもらったの!トレンチコートと悩んだんだけど、あまり裾が長いと動き辛そうだったから、Pコートにしたの!」
「そうか」
「あとね、色もすごく悩んで…黒が似合うと思ったんだけど、黒だと服の色と一緒で一色になっちゃうし、ダンテの好きな赤だと若と被っちゃうし…紺色も似合いそうだけど、それは私の好きな色だから何か違うし…悩んだ末にダンテの髪が銀色だから、灰色なら合うかなと思って、落ち着いた色にしようと思って少し暗めの灰色にしたの」
珍しく饒舌な彼女の話にダンテが耳を傾けていると、はっと我に返ったリアラが申し訳なさそうにこちらを見上げる。
「ごめんね、ずっと話し続けちゃって…」
「いや、気にしなくていい。それくらい俺のことを考えてくれたってことだろ?」
ありがとな、と感謝の言葉を告げると、彼女は照れ臭そうに、けれど嬉しそうに笑う。ああ、彼女にはこうやってずっと笑っていてほしい。そう思ってしまう程に、彼女は自分にとって大切な存在になっている。
「そろそろ帰るか」
「そうだね、明日も仕事があるしね。そろそろ帰らなきゃね」
「じゃあ、来た時と一緒の帰り方だな」
「…やっぱり、あの帰り方になるの?」
「杖を置いてきたんだから飛べないだろ?…嫌か?」
「…嫌だったら、とっくに拒否してるわ」
「そうか」
自分でも意地が悪いと思いながらも問いかけると、リアラは嫌じゃないと答える。このやり取りすら、心地いい。
今はこのままでいい。気づかなくていい。だから、このまま彼女を傍で守れたら。そんな願いを胸に秘め、ダンテはリアラを抱き抱えると翼を広げ、枝から飛び立った。
***
2019.5.16
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