▽ 気遣いの意味 10
「……」
そわそわと落ち着かない様子で、リアラはリビングに敷かれた白いカーペットの上に座っていた。視線の先には、自室の扉。今はダンテが部屋の中にいる。
(ダンテ、気に入ってくれるかな…)
コートの入った袋を持って部屋に入っていったダンテの姿を思い出し、リアラは両手を握りしめる。
キリエの店でコートを受け取り、家に着いた時には日は沈み、辺りは暗くなっていた。まずは先に夕食にしようと支度をし、いつものように二人で食事をした。食べ終わった後、自分が片付けている間に時間があるから着てみていいと伝えたのだが、ダンテは片付けが終わるまで待っていると答えたため、手早く片付けを済ませ、待っていた彼にコートの入った袋を渡した。受け取ったダンテに着たところを自分に見せたいからと言われたため、自分の部屋で着替えているダンテを待っているのだが…。不安になり、俯いたその時、扉が開く音が耳に届いた。リアラは顔をあげる。
「…」
「…似合ってるか?」
どこか照れ臭そうに尋ね、頭を掻くダンテ。街の人達や魔女の服を作るだけあって、キリエの作ったコートは彼にぴったりのサイズだった。少しだけだがいつもと雰囲気の違う彼から目が離せない。
「…リアラ?」
「…!あ…えっと…」
呼びかけられたことではっと我に返ったリアラは、先程まで自分がしていたことに恥ずかしさを感じて顔を真っ赤に染める。ダンテから視線を逸らしながらも、何とか言葉を絞り出す。
「かっこいい、と思うよ…」
「!」
「あ…!えっと、聞かれたことと違うことを言ってごめんなさい…!似合うと思うよ!」
自分は何を言っているのだろう、いや、そう思ったのは本当なのだが。顔の熱が余計に上がった気がして、リアラはその場から去ろうと立ち上がる。
「ごめんね、少し頭を冷やしてくる!…っ!」
「…待てよ」
外に出て風にでも当たろうと踏み出した足は、腕を掴まれたことで止まる。振り返ると、自分と同じように頬を染めたダンテがいて。
「…ありがとうな」
「!…どう、いたしまして…」
普段は見ない表情でお礼を言われ、真っ直ぐに顔が見られない。視線を逸らしながら言うと、グイッと腕を引っ張られた。背中に感じた温かさと腹部に回された腕にリアラは驚く。
「!?ダ、ダンテ…!?」
「…俺も、少し頭を冷やした方がよさそうだ。少し、散歩に行くか」
「…今から…?」
「…だめか?」
「…ううん」
特に断る理由もない。静かに首を振って大丈夫だと伝えると、じゃあ行くか、と促される。うん、と頷いて、リアラはダンテと一緒に玄関に向かって歩き出した。
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