▽ 気遣いの意味 7
「…初めて会った時は、リアラ、今とは全く違う雰囲気の服を着てたんだ」
「そうなのか?今の服は嬢ちゃんに作ってもらったってのは聞いたが…」
「ああ。何て言うか、動きやすさを重視した服で女らしさっていうのはあまりなかった。今みたいにスカートも履いてなかったし。…そういうの、あんまり考えてこなかったんだろうな」
「…そうだな」
ネロの言葉にリアラの過去を思い、ダンテは静かに頷く。
「俺とキリエがリアラに会ってから…五年くらい経った頃かな、リアラが店に来て、服を作ってほしい、ってキリエに頼んだんだ」
彼女は言い辛そうに、「一人前の魔女になってから何十年とこの格好をしているけれど、もう200歳近くになるし、そろそろ女性らしい格好をするべきだと思って…」と言った。彼女なりに自分の格好を気にしていたらしい、不安そうに言うリアラに、俺はきっと誰にも言えなかったんだろうな、と思った。きっとキリエも同じことを思っていただろう。
「キリエはすぐに笑顔でその頼みを受けてさ、今みたいにすぐ仕事を始めたんだ。リアラの意見を聞きながら、服のデザインを決めていった。その時はそんなに時間はかからなかったな」
「そうなのか?」
「ああ。自分からは希望が出し辛そうだったからキリエが聞いて、それにリアラが答えてただけだからな」
「じゃああれはリアラの希望通りに作った服ってことか」
「いや、少し違う。動きやすさや好きな色はリアラの希望に沿ってるけど、ワンピースについたレースはキリエの考えだ」
「へえ、嬢ちゃんが。わざわざあのデザインにしたってことは、嬢ちゃんなりの思いがあるってことだな」
「ああ。リアラの希望を入れつつ、リアラが気にしてた女らしさも入れようって思ってあのデザインにしたみたいだ。少し動きにくくなるのは承知の上でだったらしいし。だめだって言われたら直すつもりだったって言ってた」
「なら、今あいつがあの服を着てるってことはだめだって言われなかったってことだな」
「ああ。あの服を見た時のリアラ、すごく嬉しそうな顔をしてな、ありがとう、って笑顔でキリエに言ったんだ。…言われたキリエも、嬉しそうにしてたよ」
「…そうか」
細められた目に滲んだ優しさを見て、恋人であるキリエも、友人であるリアラもどちらも大切にしているのだと伝わってくる。ネロの言葉に同じく目を細めてダンテが頷いた時、トトト、と軽い足音が近づいてきて、ダンテは視線を移す。
「ネロ、決まったよ」
色の見本をネロの前に差し出し、この色にしたいの、とリアラはある場所を指差す。
「この色か。わかった、キリエに伝えておく」
「お願いね」
「ああ。できたら連絡するな」
「うん」
いくらか言葉を交わすとリアラから見本を受け取り、ネロは部屋を出て行く。それを見送ったリアラはダンテの方を振り返る。
「じゃあ帰ろうか、ダンテ」
「ああ。コート、楽しみにしてるな」
「うん!」
珍しく楽しそうな彼女に笑みを返し、ダンテはリアラと一緒に部屋を後にした。
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