▽ 気遣いの意味 5
チリンチリン
「いらっしゃいませ…あら、リアラ」
「こんにちは、キリエ」
来客を告げる鈴の音に振り返ると、友人である魔女と彼女のパートナーである魔獣がいた。作業の手を止め、キリエはカウンター越しに二人を出迎える。
「お店の方に来るなんて珍しいわね、予備の服の注文かしら?」
「ううん、服の注文ではあるんだけれど、今日はダンテのコートをお願いしようと思って来たの」
「あら、ダンテさんの?」
「うん。これからどんどん寒くなるでしょ、人の姿で過ごすなら今の服だけだと寒いし、あったら便利かな、と思って」
「確かにそうね…わかったわ、任せて。ダンテさん、何か希望はありますか?」
「あ、キリエ、そのことなんだけどね…」
笑顔でダンテに尋ねたキリエにリアラが声をかける。
「ダンテの希望でね、私がコートのデザインを決めることになってるの」
「ダンテさんの希望で?」
「ああ。たまにはこういうお願いもいいかと思ってな」
「人それぞれの好みがあるから、本当は本人が決めるのが一番いいと思うんだけど…お願いされたから私が決めることになったの」
自分はそんなにセンスがいいとは思えないんだけどね、と苦笑するリアラ。ふふ、そう、とキリエは笑う。
「わかったわ。じゃあ、まずはコートを作るために採寸しましょうか。ダンテさんは試着室に…」
「俺がやる」
三人が声のした方へ視線を向けると、カウンターの奥にある扉の前にネロが立っていた。
「あ、ネロ。こんにちは」
「おう」
「ネロ、どうしたの?確か、街の人に頼まれていた鍬の修理をしていたはずでしょう?」
「もう終わったよ。一休みしようと思って部屋を出たらリアラの声がしたからな、店の方に来るなんて珍しいなと思って様子を見に来たんだよ」
歩きながら答えたネロはキリエの前で足を止めると、右手を差し出す。
「コート作るのに採寸するんだろ、俺がやっておくからキリエはリアラとデザインの相談しててくれるか」
「え、いいの?」
「ああ、そんなに時間がかかる作業でもないからな。デザイン決める方が時間がかかるだろ、なら早くやった方がいい」
「そうね、ありがとう、ネロ」
じゃあお願いね、と渡された採寸用のメジャーと記録用の紙を受け取り、ネロはカウンターの外に出ると試着室を指差す。
「おっさん、こっち」
「おう。…坊や、進んで手伝ってるように見せかけて、本当は嬢ちゃんに俺の採寸させるの嫌だったんだろ?恋人だもんなー」
「なっ…うるせえよ!」
肩に手をかけてくるダンテの言葉に顔を赤くし、ネロはその手を払う。
「ふふっ、仲がいいわね」
「そうだね」
笑って見送るキリエに、たぶんダンテがからかってるだけだろうけど…なんて思いつつも、リアラは頷く。
「じゃあ、この間にデザインを決めましょうか。作業部屋に移動するから、そこから入って」
「うん、お邪魔します」
先程ネロが出た入り口からカウンターの中に入り、リアラはキリエと一緒に作業部屋に向かった。
prev /
next