▽ 覚えることはまだまだある 25
「その場に書く物がない時や外で伝言を残していきたい時に使う魔法なんだけど、魔力で空中に文字を書くの」
「文字を?」
「うん。杖で書くことが多いけど、慣れれば指でも書けるんだよ」
そう言うと、リアラはす、と手を上げる。人差し指の先に淡い水色の光が灯り、指が動くと共に空中に線を描く。手の動きが止まった時には、空中に彼女の名前が書かれていた。
「おー、便利だな」
「杖で書く方が安定するんだけど、指で書けるようになると便利だよ、魔力をコントロールするための鍛錬にもなるし。ただ、難しい魔法なんだ」
「そうなのか?」
「うん。同じ太さの線を書くには同じ量の魔力を維持してないといけないから」
「あー、そりゃあ集中力がいるな。バージルが得意そうなやつだ」
「いきなり難しい魔法でごめんね、この場で道具を使わないでできる魔法はこれしか思いつかなかったから…」
「謝らなくていいさ、俺が教えてほしいって言ったんだからな。それにリアラが難しいって言うならそれくらい難しいってことだろ、やりがいがあるな」
難しいと言われて怒るどころか楽しそうな笑みを浮かべたダンテに、リアラもそっか、と笑みを浮かべる。
「よし、じゃあさっそくやってみるか」
先程のリアラと同じように手を上げ、指先に魔力を集中させる。暗い紫色の光が指先に灯り、ダンテは指を動かし始める。
「けっこう難しいな」
「自分のコントロールしやすい魔力の量でやるといいよ、そうすれば安定するから」
「わかった」
最初は線の太さもバラバラでところどころインクを零したような文字になっていたが、リアラのアドバイスを受けて練習している内に、段々と線の太さが揃ってきてきれいな文字になってきた。
「いつも自分が文字を書く時の速さを意識してみて。あまりゆっくりと書いているとインクを零したようになってしまうから」
「こうか?」
「うん、そう。…ダンテは飲み込みが早いね、これならすぐに上手くなるよ」
「そうか、リアラのお墨付きがもらえて嬉しいよ」
自分の言葉に嬉しそうに笑う彼を見ていると、自分も嬉しくなる。心が温かくなるのを感じながら、リアラは柔らかな笑みを浮かべる。
「じゃあ、今日はこれくらいにしとくか。また時間があったら練習するから、その時はよろしくな」
「うん」
「明日は配達、朝からあるのか?」
「ううん、明日はお昼頃からだから、そんなに早くないよ」
「そうか。…なら、もう少し話すか」
「うん」
優しい笑顔に促され、リアラは頷く。もう少し、この温かくて穏やかな時間を共有していたい。夜が更けていく中、二人はたくさんの話をしたのだった。
***
2018.12.27
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