▽ 覚えることはまだまだある 16
勉強会を始めて一時間を過ぎた頃、リアラが二人に声をかけた。
「よし、そろそろ休憩しようか」
「そうだね、結構練習したし、ちょっと休もっか」
「わーい、おやつ!」
リアラの言葉にルティアは頷き、ディーヴァは両手を上げて喜ぶ。
ルティアが召使いのホムンクルスにお願いして新しい紅茶を用意してもらい、その間にリアラやディーヴァ、パートナー達はみんなでお茶ができるようにとテーブルや椅子を移動する。勉強道具を一旦片付け、もう一つのテーブルを隣りに、その周囲に人数分の椅子を置く。ちょうどいいタイミングでホムンクルスが持ってきてくれた温かな紅茶の入ったティーポットとティーカップをテーブルに置き、それぞれ席に座ってちょっとしたお茶会が始まった。
「美味しい!やっぱりリアラのところの紅茶は美味しいね!これアッサム?」
「うん、そうだよ」
「このパウンドケーキ美味しー!もう一つ食べていい?」
「ふふ、どうぞ。ディーヴァの作ったクッキーも美味しいわね、ジャムの甘さがちょうどいいわ」
「うん、紅茶と相性いいよね」
「本当?よかったぁ」
女子三人で和気あいあいと話す隣り、三人のパートナーである魔獣達はどこかギスギスとした空気の中、紅茶を飲んでいた。
「なんでこの並びなんだよ」
「ルティア達が偶にはこの三人で、と言ったのだからこうなるのは当然だろう。三人で揃って茶を飲む機会はあまりないのだからな」
「まあ、たまにはいいじゃねえか、思うようにさせてやれよ。大体、ディーヴァの隣りにしてもらっといて何が不満なんだよ」
そう、ダンテの言う通り、魔女組と魔獣組で別れているとはいえ、若はディーヴァの隣り、バージルはルティアの隣りの席に座っているのだ、それもリアラが気を遣った上で決まった席順で。それに何の不満があるというのだろう。だってよ、と若が籠のクッキーに手を伸ばしながら言う。
「隣りっつったって、ディーヴァはあっちの二人としゃべってるし。オレと話するわけじゃねえんだし、つまんないのは当然だろ」
「俺が言ったことを聞いていなかったのか、愚弟が。三人で、となればその三人で話すのは当然だろうが」
「そんなの知ったこっちゃないね。大体、バージルと向かい合わせで座る意味がわかんねえ。兄貴と席代われよ」
「俺とて隣りがルティアでなければとっくに席を代えている。貴様と向かい合わせに座るなど反吐が出るわ」
今にも兄弟喧嘩を始めかねない二人にダンテはため息をつく。大体、席を代えたとしても、今度は隣り同士になってそのことでまた言い合いを始めるだろうに。いや、まずそれ以前にリアラの気遣いを否定するような言い方に腹が立つ。
(あんまり言うようなら毒針ぶっ刺してやろうか…)
兄弟喧嘩を止めるのに毒針を使うことはあまりないが、今は使って止めてやろうかと思ってしまう。気晴らしにと切り分けられたパウンドケーキに手を伸ばし、それをダンテが一口口にした時だった。
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