▽ 覚えることはまだまだある 5
「…その、放ってしまったような感じになっちゃってごめんね。ダンテは私を気遣ってくれたのに…」
『ん?ああ、気にするなよ、お前が一つのことに集中しだすとそれに気を取られるのは前の祭りでよくわかったからな』
放っておかれた、なんて少しも思っていない。彼女の性格上それはないと知っていたし、誰かのためにやることを考えるその姿を好ましく思っているから。
『だから謝らなくていい。それでもまだ気にするっていうなら、今日の勉強会が終わってからお前が放っておいたと思う分構ってくれればいい』
な?と冗談混じりでダンテがリアラに言うと、リアラは目を瞬かせた後、柔らかい笑みを浮かべて、うん、と頷く。
「…あのね、ダンテ」
『ん?』
「実はね、ダンテにお礼をしようと思って、皆で食べるお菓子とは別にダンテの分のお菓子を作って持ってきたの。勉強会っていう皆がいる場所でこういうことをするのもどうかと思うんだけど、渡す時間がなくて…さっき、家にいる時に渡せればよかったんだけど…」
恥ずかしさからか途切れ途切れになっていたが、リアラの言葉はしっかりとダンテの耳に届いていた。一瞬呆気に取られた後、ダンテはククッ、と笑いを堪える。
『お前、そんなに恥ずかしいなら家に戻ってから渡せばよかっただろうに』
「あ…そっか…」
『いや、どこであろうと受け取るべきだよな。お前が俺へのお礼にって考えて作ってくれたんだから』
首を振ってそう続けると、ダンテはリアラのいる後ろを振り返って柔らかい声で言う。
『ありがとな、リアラ。死神の城に着いたら食べさせてもらうな』
「…うん。ダンテ、家に帰ったら話せなかった分、たくさん話そうね」
『ああ』
嬉しそうに笑うリアラにダンテも笑みを返した。
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