▽ 雨が止むまで 16
ケトルの注ぎ口から出る蒸気が、高い音を立ててお湯が沸いたことを知らせる。その音に、リアラは意識を現実に戻す。
(…きっと、死神さんにとって、ルティアのお母さんは大切な人だったんだ)
普段は冷静で常に余裕を携えている彼女が見せた、あの表情。彼女にあんな表情をさせるくらい、彼女にとって特別な存在だったに違いない。
(ルティアのお母さんは、素敵な人だったんだな)
あんなに死神さんに想われているのだから、素敵な人だったに違いない。
(私もルティアのお母さんや母様のように、誰かに想われる素敵な人になりたいな)
死神さんに想われるルティアのお母さんのように、父様に想われる母様のように。ティーポットから二つのティーカップに温かな紅茶を注ぎ、二つの皿にフィナンシェを置いたリアラはそれらをトレーに乗せ、キッチンを後にした。
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2018.9.7
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