▽ 月の満ちる夜に 11
『…俺と、契約しないか?』
「……え?」
今、何て言った?『契約』、そう言った?
『あんた、よく他の魔獣に狙われてるんだろ?だったら、パートナーがいた方が安心だと思うが』
「それは、そう、ですけど…。けど、これじゃあ、返せる物じゃなくて…」
『心配するな、あんただけじゃなく、俺にも利益がある話だ』
そう言って、彼は話を続ける。
『俺は常界が好きでな、いろんなところを気ままに見て回ってる。ただ、魔獣である俺が一人で動き回ってると、人間に不安がられたり、疑いの目で見られたりすることがあってな、動き辛いんだ』
「つまり、私と契約すれば魔女のパートナーとして自然に動き回れる、ということですか?」
『ああ。察しの早いお嬢さんで助かる』
どうだ?と尋ねられて、うーん、と私は唸る。
「私といても、いいことなんてないと思いますが…」
『それは一緒に過ごしてみないとわからないだろ?』
「迷惑、たくさんかけると思いますよ?」
『魔獣関係でなら気にしなくていい』
「…私で、いいんですか?」
戸惑いながら私が尋ねた言葉に、彼は目を瞬かせ、そしてフ、と笑った。
『ああ。あんたみたいに律儀で丁寧で優しい奴は、そうそういないからな。それに、二度も守ったんだから、何度守っても同じだろ?』
「…ふふっ。そうですね、わかりました」
彼の言葉に笑って頷くと、私は彼の顔に両手を伸ばす。それをすることが自然だというように、彼は私に頭を差し出す。
「契約を結ぶ前に、名前だけ、先に教えてもらってもいいですか?」
『ダンテだ。お嬢さんの名前は?』
「リアラといいます。これからよろしくお願いしますね、ダンテさん」
『ああ。こちらこそよろしくな、リアラ』
差し出された頭にコツ、と額を合わせ、私は契約の言葉を紡ぐ。
「我が名はリアラ。氷の魔女。『雪の薔薇』の名を持つ者也」
『我が名はダンテ。闇と木の魔獣。『紫毒の魔獣』の名を持つ者也』
「汝、いついかなる時も我が身を守り、剣と盾となることを誓うか」
『誓おう。汝、いついかなる時も我が身と共にあり、力の源となることを誓うか』
「誓おう。月下の元、これにて誓いは交わされた」
「『契約の儀を、ここに果たす』」
こうして、私とダンテさんは二度目の出会いを経て、契約を結んだのだった。
***
2017.7.18
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