▽ 雨が止むまで 10
「ケルベロスと会ったのも、父様との繋がりででした。魔女の中には魔獣退治を仕事にしている人もいますが、退治と言ってもほとんどが対象の魔獣を魔界に送り返すだけで、再びその魔獣が常界に現れて人間や魔女に害を成すことが多かったんです」
中には文字通り魔獣を『退治』する人もいますが、とリアラは続ける。
「私もその仕事を始めた頃は依頼対象の魔獣を魔界に送り返すだけで、その後の依頼で同じ魔獣に会うことが何度もありました。退治すれば一番いいのかもしれませんが、人間や魔女を殺していたとしても、私には相手の命を奪えなかったんです。命を奪うことが、怖かった」
怖かった。普段弱さを見せない彼女が零した弱音は、死神には命の重さを知るがゆえの彼女の優しさに見えた。
「仕事を始めて何年か経った頃、ある日、私の家に一体の魔獣が来ました。その魔獣はケルベロスの使いだと名乗って、彼が話をしたいと言っているから魔界に来てほしいと私に言いました。父様からケルベロスのことを聞いていた私はすぐに彼の使いと一緒に魔界に向かいました」
監獄塔の前で会ったケルベロスは自分より遥かに大きく、その魔力の強さに彼の強さを感じ取った。彼は魔女である自分を見下すことはなく、同族と話すかのように話を始めた。
「お前のことはゼクスから聞いている、と彼は言いました。過去にあやつがやっていたことと同じことをしているのも聞いている、とも言いました」
話しながら、リアラはその時のことを思い浮かべる。
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