▽ 雨が止むまで 8
「魔界に帰った次の日、父様は母様にお世話になったお礼をしに常界に行ったそうです。怪我を治してもらってその上家で休ませてもらったとなれば、それ相応の礼をしないといけないと思ったそうです」
「義理堅いんだな、お前の父親は。魔獣の中では珍しいタイプだ」
「そうなんでしょうね、基本的に魔獣は同じ一族か力を認めた者でもない限り、周囲のことなど気にしない、と父様が言っていましたから」
「で、すぐに見つかったのか?」
「はい、家の方に向かっていたら偶然にも途中で薬草を採っていた母様に会ったそうです。お礼を言って何かしら恩を返したい、と伝えたそうなんですが、お礼なんでいらないわ、私が放っておけなかったんだもの、と言われたそうです。でも、父様はそれでは納得できなかったそうで、その後も何度か足を運んで同じようなやり取りを繰り返している内に親しくなって、契約を結ぶまでに至ったと言っていました」
「それでお前の母親と共に常界に住むようになったというわけか」
「はい。今は母様と一緒に魔界で暮らしていますけれどね」
「お前は両親と共に魔界に行こうと思わなかったのか?」
「父様と母様が魔界に行くという話は聞かされましたが、私はここにいることを選びました。私は、ここが好きなので。父様も母様も自分の人生だからといる場所を私に選ばせてくれました」
「そうか」
魔界でも魔女と魔獣の子は差別されるが、魔界は実力主義だから力さえ認められれば生きていける。むしろ、周囲に気を遣わずに生きていける事を考えれば彼女のように実力のある者は生きやすいかもしれない。だが、どれだけの差別を受けようともここを好きだと言える彼女はここを離れようとはしないだろう。例え、どれだけ自分にとって生きにくい世界であったとしても。
「死神さんは私がここを好きだと言うことを不思議に思わないんですね」
「お前が好きだとはっきり言えるなら、それなりの理由があるという事だろう。私がとやかく言う事ではない」
「…そうですか」
目を細め、リアラは柔らかく笑う。
「どれだけの差別があったとしても、その分優しさもあります。その優しさがある限り、私はここを好きでいられる。ここで、生きていけるんです」
あの日、呪術師に向かってダンテが言ったあの言葉は、自分が大切にしているものを表した言葉だった。きっと、同じ境遇である彼はわかっていたのだろう。
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