▽ 雨が止むまで 7
「不思議な縁と言えば、お前の両親もそうだな。お前の母親はお前のように魔獣退治の仕事をしていたわけではないのだろう?どうやってゼクスに会ったのか気になる所ではあるな」
リアラのように魔獣退治の仕事をしていない限りは魔女と魔獣が出会う機会はあまりない。魔獣は基本的に強い者以外には関心がない、むしろ人間や魔女を見下している程だ。人間を好んで喰らう奴や魔力を強めるために魔女を喰らうような奴でもないと人間や魔女の前に姿を現わす事はないだろう。父様と母様の出会いですか?と首を傾げたリアラはうーん、と一度考え込んだ後、再び口を開く。
「私の聞いた限りですけど…昔、常界で怪我をしていた父様を母様が見つけて、その怪我を治したんだそうです」
「常界で?」
「はい。その頃の父様は知り合いだったケルベロスに頼まれて、時々ですが罪を犯した魔獣の捕獲を手伝っていたそうです。母様と会ったその日もある魔獣の捕獲の手伝いをしていて、逃げた魔獣を追って常界に来たそうですが…相手は父様と同じ『プラチナ』クラスで、その上、殺した魔獣を喰らうという行為を繰り返していたために魔力は強大で、厳しい戦いになったそうです」
「ケルベロスの監獄塔では、同族を喰らうのは一番に重い罪だったな」
「はい。最終的に父様は戦いに勝って魔獣をケルベロスの監獄塔に送ることはできたそうなんですが…その魔獣との戦いで怪我をしていて、すぐに魔界に戻れる状況ではなかったそうです。戦いで魔力もなくなってしまっていて治るのにも時間がかかる状態で、仕方なく近くにあった木の下で身体を休めていたら、そこを偶然通りかかった母様が父様に気づいて、魔法で怪我を治してくれたんだそうです」
「よく逃げなかったな」
「怪我をしている人を放ってはおけない、そう母様に言われたそうです。母様は治癒魔法に長けた人ですから、少し時間はかかったけれどその日の内に怪我は直ったそうです。ただ、そのままにしておけなかったのか、母様に自分の家で休んでいくように言われたそうです。一度は断ったらしいんですけれど、そんな状態で帰すわけにはいかないと強く言われてしまって、それ以上は断れなかったそうです。その日は母様の家で一晩休ませてもらったそうで、その時は渋々母様について行ったと父様は苦笑しながら言っていました」
「弱っていたとはいえ、見も知らぬ魔獣を家に連れて行ったのか?お前の母親は意外と大胆なんだな」
「そうかもしれません、母様はこうすると決めたことは何があっても曲げなかったので。…でもきっと、私も同じ状況なら同じことをしました。例え見ず知らずの魔獣であっても」
「襲われるかもしれないと分かっていてもか?」
「はい」
静かに、だがしっかりとリアラは頷く。その目は真っ直ぐで意思の強さを感じさせた。納得したように死神は頷く。
「成る程、お前の性格は母親似か。一度決めた事を曲げない所はしっかりと受け継がれたようだな」
「ふふ、そうかもしれません」
「で、その話には続きがあるのか?」
「はい」
頷くと、リアラは再び両親の話を語り出す。
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