▽ 雨が止むまで 3
ポットから注がれた温かな紅茶が白いティーカップの中で揺れて湯気を立てる。色を揃えた皿の上に並べられたフィナンシェと共にトレーに乗せて、リアラはダイニングで待つ死神の元へ向かう。
「どうぞ」
「頂こう」
優雅な動作で目の前に置かれたティーカップを持ち上げた死神は、ふわりと広がった香りに一度手を止めて呟く。
「この香り…薔薇か」
「あ、お気づきになりましたか?昨日、街の方から薔薇の花びらが入った紅茶を頂いたんです。死神さんは薔薇のマスクを付けていますし、イメージにぴったりだと思ってこれにしたんです」
こちらにいらっしゃるのがわかっていたらお菓子も薔薇の花を模したアップルパイを用意できたんですけど…とリアラは苦笑する。
「そこまで気を遣わずともこの紅茶と菓子だけで充分だ。この菓子だってお前が作ったのだろう?」
「はい」
「ならそれでいい。お前の作る菓子は美味いからな。…ああ、いい紅茶だ。流石あの町の名産なだけあるな」
「ありがとうございます、そう言って頂けると嬉しいです」
自分のことのように嬉しそうに笑って、リアラは死神の隣りの席に座る。彼女の前に菓子は置かれていない。
「お前は食べないのか?」
「私はダンテが帰ってきてから一緒に食べます。なので、どうぞお気になさらないでください」
「パートナーの帰りを待って一緒に食べるとは、相変わらずお前は律儀な奴だな」
「一人で食べるより二人で食べた方が美味しい…そのことを知っていますから」
そう言って自分の紅茶に口をつけたリアラに、死神は静かに、独り言のように呟く。
prev /
next