▽ 想いの歌 20
「ダンテの歌声は、優しいね」
思いもしない言葉に、ダンテは目を見開いて動きを止める。
「きっとエヴァさんが歌ってくれた時を思い出しながら歌っているからなのね、声が優しいわ。もちろん、ダンテが優しいからっていうこともあるけれど」
「…優しい?俺がか?」
静かにダンテが問うと、ええ、とリアラは頷く。
「ダンテは優しいわ、誰が何と言おうとも、私はそう思ってる。それにずっと一緒に過ごしてきたんだもの、わかるわ」
あの満月の日に再会して、約半年。心配させてしまうことも、怒らせてしまうこともあったけれど、それが彼の優しさゆえだと知っている。きっと、これからも心配させて、怒らせてしまうのだろうけれど、これだけは何度だって言える。
「だから…ダンテは、優しいわ」
「……」
じっと見つめてくるアイスブルーの目を見つめ返していると、ふいに彼はフ、と笑った。
「…お前が言うなら、そうかもな」
す、と大きな手が伸びてきて、くしゃくしゃと頭を撫でられる。その温かな手にリアラも目を細めて笑う。
「…ねえ、ダンテ」
「何だ?」
「…冬にね、森の近くの町で、町の人達が私の誕生日をお祝いしてくれるお祭りがあるの。春に母様の誕生日をお祝いするお祭りから引き継がれたお祭りでね、そのお祭りで、私は町の人達と踊るんだけど…ダンテ、私の踊りの相手をしてくれないかな?」
仮契約といういつ切れるかわからない不安定な繋がりだけど、このお祭りを一緒に過ごせたのなら、冬のお祭りも一緒に過ごしたい。やっとの思いで告げたリアラの言葉にダンテは目を瞬かせたが、やがて優しく笑って頷いた。
「…ああ、いいぜ。俺はお前のパートナーだからな」
「…!ありがとう、ダンテ!」
ぱあっと目を輝かせて笑う彼女に、少女のようだとダンテは思う。瑠璃色の瞳を向けたまま、あのね、とリアラが続ける。
「最後にもう一つお願いがあるんだけど、いいかな?」
「ん?何だ?」
「さっきダンテが歌ってた子守唄、ちゃんと聴きたいの。…聴かせてくれないかな?」
彼女のお願いが予想外で、思わずダンテはククッ、と笑い声を溢す。
「俺の歌が聴きたいだなんて、お前変わってるな」
「そうかな?」
首を傾げる彼女の頭にポン、と手を置き、いいぜ、とダンテは答える。
「俺もお前の歌たくさん聴かせてもらったしな、少しはお礼をしないとな。ちゃんと聴いとけよ?」
「うん」
ダンテは前を向くと一度息を吸い込み、吐き出すと同時に歌い始めた。
「〜、〜♪〜、〜」
男性特有の力強い、それでいて優しい歌声が夜空に響き渡る。心地いいテノールに耳を傾けながら、リアラはゆっくりと目を閉じたのだった。
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