▽ 想いの歌 19
タオルで髪をしっかりと乾かし、櫛で梳いて整えると、リアラはバスルームを出る。
「ダンテ?」
いつもリビングで寝ているはずのダンテがおらず、リアラは首を傾げる。辺りを見回していると、ふいに何かの音が耳に届いた。
「歌…?」
耳を澄ませて聴いてみると、それは歌だった。穏やかな曲調からするに子守唄だろう、そして、この聞き慣れた声は…
「ダンテ…?」
この家に住んでいるのは自分以外、一人しかいない。不思議に思いながらも、上から聞こえた音を頼りにリアラは自室を通り、ベランダへ続く階段を上がる。天井の扉を開けてベランダに顔を出すと、以前の自分と同じように音に気づいたダンテがこちらを見ていた。
「リアラ」
「歌声が聞こえたから来たんだけど…ごめんね、邪魔しちゃったかな?」
「いや。そういえばお前、耳がよかったもんな」
こっち来いよ、と自分の隣りをポンポンと叩くダンテに頷いて、リアラはベランダに出るとダンテの隣りまで歩いてゆっくりと座る。
「さっき歌ってたの、子守唄?」
「…よくわかったな」
「優しい曲調だったから、子守唄かなって思って」
そう言って微笑むリアラにつられ、ダンテも口元を緩ませる。
「俺達兄弟が小さい頃にお袋がよく歌ってくれてたんだ。何度も聴いてるから覚えちまってな、今じゃ口ずさめるくらいになっちまった」
「そうなんだ。私も小さい頃に母様がよく子守唄を歌ってくれてね、その影響で歌が好きになったの」
「なるほどな、だからよく家事をしながら歌を口ずさんでるのか」
「うん」
ちょっとした話題でも笑顔で話が続く、この時間が幸せだと思う。リアラは自分より上にあるアイスブルーの目をじっと見つめると、穏やかな顔でこう言った。
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