▽ 想いの歌 15
キリエ達のいた控え室とは反対側に面した部屋の前、その扉を見つめた後、ダンテは扉を軽く叩く。
「リアラ、俺だ。…入っていいか?」
「ダンテ?…ええ、どうぞ」
了承を得て、ダンテは扉を開ける。扉を開けた先にいたリアラを視界に入れた瞬間、思わずダンテは動きを止めた。
「………」
キリエと同じく白い衣装に身を包んだリアラは、椅子に座ってこちらを見ていた。頭は黄色いマリーゴールドの花冠で飾られていて、レースで編まれた衣装と同じ色のベールが下ろした髪を覆うように伸びており、ふわりとした裾が肩にかかっている。うっすらと白粉をはたいた顔は、唇にもうっすらと赤い紅をひいていた。
「…ダンテ?」
こちらを見たきり動かなくなってしまったダンテに首を傾げ、リアラは声をかける。リアラの声にはっと我に返ったダンテはあー、その…と口を開く。
「思わず見惚れちまってな。きれいだな」
「え、あ…えっと…」
気恥ずかしいのか頬を掻きつつかけられた言葉に、リアラは頬を染める。そんな言葉をかけられたのは初めてかもしれない。
「…とりあえず、扉閉めようか。外に声が聞こえちゃうし…」
「あ、ああ、悪い」
お互いに視線を逸らしていたが、いつまでもこうしているわけにはいかない。リアラに言われて扉を開けたままだったことに気づき、ダンテは部屋に入って扉を閉める。パタン、と静かな空間に扉の閉まる音だけが響く。
「キリエに聞いてここに来たの?」
「ああ、こっちの部屋にいるってな。緊張で話せないから一人になりたいって言ってたって聞いたもんだから行くかどうか迷ったんだが…坊やに行ってやれって背中を押されたよ」
「そっか…。わざわざ本番前に来てくれてありがとう、ダンテ」
「礼なんかいらねえよ、俺が心配だっただけだ。お前、昨日の晩から緊張してたからな」
近くにあった椅子を引き寄せるとリアラの向かいに座り、ダンテは瑠璃色の目を見つめる。
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