▽ 想いの歌 14
まだ誰もいない講堂内、長椅子の並ぶ横を通り過ぎ、現れた扉の前に立つと、ネロはコンコン、と扉を軽く叩く。
「キリエ、俺だけど。入ってもいいかな?」
「ええ、どうぞ」
穏やかな声に招かれて扉を開ける。ネロに続いてダンテが中に入ると、白い衣装に身を包んだキリエと彼女を囲むようにしてルティアとディーヴァがいた。
「あ、ネロとダンテだ。久しぶりー」
「ネロ、髭さん、こんにちはー」
「ああ」
「よう、元気にしてたか?」
「相変わらずかなー」
「うん、ダンテ共々元気にしてるよー」
お互いに挨拶を交わすと、ネロは辺りを見回して首を傾げる。
「若とバージルはどうした?一緒に来てるんじゃねえの?」
「二人なら外にいるよ、どこに行ったかはわからないけど」
「たまたま教会の前で会ったんだけど、いつもみたいに悪口の言い合いになっちゃってさ。その場で喧嘩しようとしたから、あたしとルティアさんで追い出したんだ。喧嘩するなら街の外へ出なさい!って」
「せっかくのお祭りでキリエとリアラの歌を楽しみにして来たのに、こんなところで喧嘩されたら台無しだもの。本番までには戻ってくるように言ったけど…」
「あの二人だしなあ…時間までに戻ってくるか微妙なところだね」
「だよね」
「まあ、あればっかりはどうしようもねえな、時間までに戻ってくればいいんだが。…ところで、リアラはどこにいる?」
ため息をつく二人に同情しつつ、ダンテは尋ねる。クレドからリアラは控え室にいると聞いていたのだが、肝心の本人の姿が見当たらない。辺りを見回すダンテにキリエが答えてくれた。
「リアラなら反対側の部屋にいます、緊張で話ができないから一人になりたいって言ってました」
「一人に?…そりゃあ、相当緊張してるな」
「さっきまではここにいたんだけどね、私達が来てから少しして行っちゃった」
「あんなに緊張してるリアラさん見たの、初めてだよ…リアラさんでも緊張するんだね」
話を聞くと、行っていいものかどうか迷う。考え込むダンテの背を、後押しするようにネロが叩く。
「行ってやれよ、おっさん」
「坊や…」
「たぶん、おっさんなら大丈夫だ。…何となく、そんな気がするからな」
「…ああ。ありがとよ、ネロ」
わしゃりとネロの頭をひと撫でして、ダンテは部屋を後にした。
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