▽ 想いの歌 13
「おーおー、ここら辺は特にすごい人だな」
「祭りのメインイベントの会場になる教会に続く道だからな。普段も人は多いけど、祭りの時は特に多くなる」
人の波をかき分けながら、ダンテとネロは教会へ向かって歩く。
今日、空には雲一つなく快晴で祭りには絶好の日和だ。どこもかしこも人で溢れていて賑わいを見せている。特に教会のある広場へ向かう大通りにはたくさんの屋台が並び、食べ物や雑貨を売っているためか、歩くのも大変な程人が多い。
「わざわざ迎えに来てくれてありがとうな、坊や」
「キリエに頼まれたからな」
こっちに向かってるんだったら必要なかったとは思うけど、と嫌味を込めて言うネロにダンテは苦笑する。本番まであと一時間を切っている今、できるだけ長くキリエの傍にいてやりたいのだろう。はぁ、とネロはため息をつく。
「呑気なもんだな、おっさん。リアラは緊張しっぱなしだっていうのに」
「あいつの好意を無下にはできないだろ。あそこで断ったら更に余計な気遣わせちまう」
本番前、最後の歌の練習をする彼女と一緒に教会まで行った時、彼女は「本番までまだ時間があるし、せっかくだから街を見て回ってきたら?」と自分に提案した。彼女なりの気遣いなのだろう、本当なら緊張を緩めてやるためにそのままついて行こうと思っていたのだが、彼女の好意を受け入れ、その場で別れた。それでも本番前に一度顔を出そうとは思っていたので時間を気にしつつ街を散策し、そろそろ教会に向かおうかと思っていたところにネロが迎えにきたのだ。
「まあ、それはそうだけど…」
ネロもそれは理解しているのだろう、困った顔をしつつも同意する。長年の付き合いがある友人だからなのだろう、わかってはいても彼女のパートナーである自分に嫌味の一つや二つは言いたかったのかもしれない。ようやくネロとダンテが教会のある広場に到着すると、教会の前に白い自警団の服を着た男性がいた。キリエの兄であるクレドだ。こちらに気づいたクレドはダンテに向かって深々と頭を下げる。
「お久しぶりです、ダンテ殿。今日はわざわざご足労頂き、ありがとうございます」
「ああ、あんたか。久しぶりだな、元気にしてたか?」
「お陰様で何事もなく平穏に過ごしていますよ。リアラ殿なら妹と一緒に中の控え室にいます、お会いになられますか?」
「ああ」
「わかりました。ネロ、ダンテ殿を控え室まで案内してくれ」
「ああ。おっさん、こっちだ」
扉を開け、ネロが手招く。後に続いてダンテも教会に入った。
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