▽ 想いの歌 10
「ダンテ!」
自分がいたことに気づいた彼女が壇上から降り、かけ足でこちらに向かってくる。リアラはダンテを見上げ、首を傾げた。
「どうしたの?もう手伝いは終わったの?」
「あ、ああ」
「?どうしたの?具合が悪いの?」
「いや、そういうのじゃないから気にするな」
心配そうな顔をするリアラに誤魔化すように手を振り、ダンテはへらりと笑って返す。いけない、彼女に余計な心配をさせてしまった。話を戻すためにダンテは先程聞かれたことについて答える。
「最後まで手伝うつもりだったんだけどな、『後は大丈夫だからリアラのところ行ってこいよ』って坊やに言われて一足先にこっちに来たんだ」
「そうだったの、お疲れ様。街の人達の手伝いをしてくれてありがとう」
「ああ、お前も歌の練習をしてたんだろ、お疲れさん。もう少しやるのか?」
「ううん、今日はこれで終わり。あまり長い時間練習していると喉を痛めちゃうからね、時間を決めてやらないと」
「そうか、じゃあそろそろ帰るか?」
「うん、帰りに晩ご飯の材料を買っていかないといけないしね」
ダンテの言葉に頷くと、リアラはキリエの方を振り返る。
「キリエ、私そろそろ帰るね。ネロによろしく伝えておいて」
「わかったわ。ベールありがとう、リアラ。助かったわ」
「これくらいなんてことないよ。じゃあね、キリエ」
「ええ、また明日」
キリエに手を振ると、行こう、ダンテ、とリアラは隣りに立つダンテを促す。
「今日は何にしようかな…」
「何かガッツリしたもんが食いてえな」
「ガッツリしたもの?うーん…ステーキとか?」
「お、いいな」
「ちゃんと野菜も食べてね」
「わかってるよ」
並んで教会を後にする二人を、キリエは優しい眼差しで見送った。
prev /
next