▽ 想いの歌 9
二時間後、祭りの手伝いを終えたダンテは街の広場に来ていた。本当ならば最後まで手伝うつもりでいたのだが、「後は大丈夫だからリアラのところ行ってこいよ」とネロに言われてこちらに来たのだ。
「やっぱりここも飾りつけされてるんだな」
広場の中央にある噴水は赤と黄色の布で彩られ、様々なドライフルーツが花束のようにして飾ってある。教会の階段には赤い布が敷かれていて、いつもと違った雰囲気だった。辿るように赤い布の上を歩き、噴水と同じように赤と黄色の布で彩られ、ドライフラワーの花束が飾られた扉の前まで来たダンテは、聞こえた声に伸ばしていた手を止める。
「………」
耳を澄ませて聴いてみると、二つの歌声が時には交互に、時には重なりあい、一つの旋律を奏でている。どちらも女性特有のソプラノの音色だが、音に若干の高低差がある。低い方が自分のパートナーだとすぐにわかった。ダンテはゆっくりと扉を開ける。
『…結び、大地の実りが私達を満たす』
『一年の中での、至福の時』
扉越しに微かに聞こえていた歌声が、鮮やかな色を纏って耳に届いてくる。整然と並べられた椅子の向こう、壇上にステンドグラスを背景にして二人の女性が立っていた。一人はネロのパートナー、そしてもう一人は自分のパートナー。
『皆で喜び、歌おう共に』
『大地の恵みへの感謝の歌を』
『皆で願い、歌おう共に』
『次の実りへの祈りの歌を』
数歩歩いたところで、ダンテは足を止めてしまった。ステンドグラスから射し込む光に包まれた彼女はいつもと違った雰囲気を纏っていて、その美しさに目を奪われてしまったから。
『やがて大地は眠りにつく、新たな命を宿すために』
『私達は見守り、待とう。大地が目覚めるその時まで』
『そして心に刻もう、大切なことを』
『『私達は、大地と共に生きている』』
二人の声が重なり、教会内に響き渡る。その余韻を立ち尽くしたまま聞いていたダンテは、パートナーの呼ぶ声にはっと我に返る。
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