▽ 想いの歌 8
「おーいネロ、こっち手伝ってくれるか!」
「今行く!」
祭りまで一週間を切り、街の住人達は祭りの準備に忙しなく動いている。ネロも例外ではなく、作業を終えたらまた次の作業と動き回っていた。
男性陣と協力して屋台の組み立てをしていたネロは、下から聞こえた声に動かしていた手を止める。
「忙しそうだな、坊や」
視線を下に移すと、そこにいたのはダンテだった。こちらを見上げ、よう、と手を上げる。そのお気楽そうな姿に、はぁ、とネロはため息をつく。
「祭りまで一週間切ってるんだから当たり前だろ。周り見たらわかるだろうが」
「何か手伝ってやろうか?」
「本当に手伝ってくれるならな」
まあ、どうせこいつのことだから手伝いなどしないだろうけど。そう思っていたネロは、予想外の返事に目を瞬かせる。
「いいぜ。何を手伝えばいい?」
「…へ?」
「おいおい、お前が手伝ってくれるならな、って言ったんだろ?予想外だったって顔するなよ」
「…いや、おっさんがそんな素直に頷くと思わなかったから」
「失礼なやつだな、俺だって周りがこんなに忙しそうにしてたら手伝いの一つや二つくらいするさ。それに、リアラに頼まれたからな」
ああ、リアラに頼まれたのか。それならば何となく納得がいく。ダンテの性格上、人に指図されるのは好まないのだろうが、パートナーであるリアラの頼みは拒否したことがない。上から指図するような言い方ではなく、丁寧にお願いするような言い方だから聞き入れているのかもしれない。そう思いながら、ネロはじゃあ、と口を開く。
「屋台の骨組みをそれぞれ設置する場所に運んでくれるか?あっちの方に骨組みを運んでる人達がいるから、俺から頼まれたって言えばいい」
「わかった」
素直に自分の指差した方向へ向かうダンテの後ろ姿をしばし見つめた後、ネロは作業を再開した。
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