▽ 想いの歌 7
水汲みを終えたダンテが家に戻ってくると、ダイニングテーブルの側に据えられた椅子に座って、リアラが何かを編んでいた。
「あ、お帰り、ダンテ」
「ただいま。何作ってるんだ?」
「お祭りの時に歌姫がつけるベールを作っているの。去年まで使ってたベールが破れちゃったってキリエから連絡が来たから」
ふうん、と頷くと、ダンテはリアラの手元に視線を移す。細い指先は止まることなく金属の針を動かし、次々ときれいな編み目が出来上がっていく。
ふいに、リアラが顔を上げた。
「そんなに見られると恥ずかしいわ」
「おお、悪かったな」
ずっと視線を感じていたのだろう、苦笑して言ったリアラにダンテは一言詫びる。今度はくすりと笑って、一旦手を止めると、座ったら?とリアラはダンテに椅子に座るように促す。
「私が編み物をするのが意外だった?」
「いや、そういうわけじゃないんだが、手慣れたもんだと思ってな。やってるのを見たことがなかったんだが、よくやってるのか?」
「冬の間はね。冬に取れる薬草もあることはあるけれど種類はごく僅かだし、みんなそれをわかっているからあまり配達の仕事も入らないし。魔獣の捕獲の仕事以外ではほとんどお休みの状態になってしまうの。だからこうやって編み物をしたり、本を読んで勉強をしたりしているの」
「なるほどな。編み物は誰かに教わったのか?」
「ええ、母様に教わったわ。母様は編み物が得意なの、特にレース編みが得意なのよ」
家族のことを話す彼女はとても嬉しそうで、幸せそうだ。愛されて育ってきたんだなと思いながら、そうか、とダンテは相槌を打つ。
「リアラはベールつけないのか?」
「私?私もベールはつけるけれど、今編んでいるこのベールとは違う物よ。これに比べて短いの。このお祭りはキリエが主役だからね、コーラスの役である私が目立ってはいけないわ」
「そんなに気にしなくてもいいと思うけどな、お前のその役だって祭りでは重要な役割なんだって、坊やも嬢ちゃんも言ってただろ?まあ、お前が目立つようなことをするとは思えないし、そんな心配もないとは思うがな」
「ありがとう、ダンテは優しいわね。そうね、あまり気にしない方がいいのかもしれないわね」
「そうだぜ、あまり気にするなって。…さて、仕事の途中だったし、さっさと済ませてくるかね」
リアラの頭をひと撫ですると、ダンテは桶を持って立ち上がる。キッチンに向かって歩き出したダンテに、リアラが声をかける。
「ダンテ、それが終わったらお茶にしよう」
「お、いいな。菓子はあるのか?」
「チョコチップとナッツのクッキーがあるよ」
「そりゃあいい、美味そうだ」
美味い茶頼むな、そう言ってひらひらと手を振るダンテをリアラは優しい笑顔で見送った。
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