▽ 想いの歌 4
「歌姫とコーラスの二人一組で歌うんだけど、十年前、キリエのコーラスを務めてた人が年齢的に難しいって引退してな、後任が決まってなくてみんな困ってたんだよ。その時、俺とキリエがよく訪ねてる孤児院の子供の一人が『ゆきのまじょのおねえちゃんは?おねえちゃん、とってもうたがうまいよ!』って言い出してな、他の子供も口々にそう言うから、俺とキリエでリアラに頼んだんだよ」
「最初は断られました、『そんな大事なお祭りに私が参加して、私を狙う魔獣が来たら大変だから』って。それよりも前からリアラはお祭りの手伝いをしてくれていたんですけど、自分のことで迷惑はかけられないって、人手が足りない時にだけ来ていたんです。お祭りに来る時も魔力を抑える道具を持ってきたりして…今はそんなことはありませんけれど」
私が来てほしいって無理なお願いをしたからリアラがそうすることになったんですが…と申し訳なさそうな顔でキリエは言う。
「けど、俺もキリエもそんな理由で諦めようとは思わなかった。今までの付き合いでリアラがいい奴だって知ってたからな。魔獣が来るのはそいつらの勝手だ、来るっていうなら俺達が対策を立てればいいだけだし、それに何より俺とキリエがリアラにやってほしかったんだ」
「魔女として先輩だけれど、友人でもあるリアラが一緒に歌ってくれるならこんなに心強いことはないと思ったんです。それに、街のみんなもリアラが私のコーラスの役になることに賛成してくれていましたから」
「何度も話をしてようやくリアラも頷いてくれてな、顔を見せないことを条件にキリエのコーラスをやってくれてるんだ。毎年助かってるよ」
「『ああいう舞台で大勢の人に見られるのは恥ずかしいから』って言ったのよね、リアラ。ふふ、懐かしいわね」
「もう、キリエ、その話はやめてよ…」
どこか居心地が悪そうに返すリアラ。いいじゃねえか、とダンテは笑って言う。
「そういうのも思い出の一つだろ、こうやって話せるのはいいことじゃねえか」
「そう…かな?」
「ああ」
宥めるようにポン、と頭に乗せられた手は温かい。リアラの頭を撫でながら、で、とダンテは楽しそうに笑って尋ねる。
「お前が出るっていうその祭り、俺は見に行ってもいいのか?」
「あ…」
そうだった、自分の話に気を取られていて、そのことを忘れていた。祭りが近くなったら話すつもりでいたが、仕事の忙しさに言うのをすっかり忘れていたのだ。小さく、だがしっかりとリアラは頷く。
「…うん。でも、あまり期待はしないでね?」
「それは無理な話だな、嬢ちゃんがすごいって言うならどうしたって期待しちまう」
「もう…」
肩を竦めるダンテに呆れつつも、楽しみにしてくれているならいいか、とリアラは小さく笑みを浮かべる。そんなリアラの様子を、キリエとネロは穏やかな顔で見守っていた。
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