▽ 小さな君 13
「電話か?」
「あ、うん。勉強会を主催していた魔女さんにダンテが元に戻ったことを伝えたの。魔女さんも娘さんも気にしてるだろうと思って…」
「そうか。まあ、これで一件落着だな」
「うん。私を助けるためにダンテに無理矢理魔法を破らせてしまったことは申し訳ないけれど、早く戻れてよかった」
「そうだな。心配してくれてありがとな」
ダンテの大きくて温かい手がリアラの頭を優しく撫でる。
「明日も朝から配達があるんだろ、早く風呂に入って休んだ方がいいぞ」
「うん、ありがとう。…あの、ダンテ」
その場を離れようとしたダンテにためらいがちに声をかけ、リアラは思ったことを告げる。
「今日は、私の部屋のベッドで寝たら?」
「…は?」
パートナーからの唐突な提案に瞬きを忘れ、ダンテは思わずリアラをじっと見つめてしまう。自分の発言で変な誤解を生んでいるかもしれないことに気づいたリアラは慌てて説明する。
「ご、ごめんなさい、変な意味じゃないの!普段は人前でならない小さな魔獣の姿で一日中過ごして、配達先の人達に見られたり、触られたりして気疲れしてるんじゃないかなと思って…今日ぐらい、ベッドで寝た方がいいんじゃないかと思って…ああでも、それだといつも疲れてないみたいになっちゃう…」
うー、と頭を抱えるリアラを見ていたダンテは、やがてプッと吹き出した。
「言いたいことはわかったよ、気遣ってくれてありがとな」
けど、と一旦言葉を切り、リアラに近づくと、ダンテはリアラの顎を軽く持ち上げる。
「そうなると今夜は俺と一緒のベッドで寝ることになるぞ、いいのか?」
ニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべるダンテにリアラは真っ赤になって言葉に詰まったが、視線を逸らしながら何とか答える。
「ダ、ダンテの邪魔にならないなら…」
「前に言ったろ、抱き心地がよかったって。今回も抱き枕にさせてもらうかね」
ケラケラと笑って言うと、ダンテはポン、とリアラの頭に手を乗せる。その手はすぐに離れ、ダンテは踵を返す。
「先にベッドで待ってるぜ。早く来てくれよ、リアラ」
ひらりと手を振って、ダンテはリアラの部屋に向かう。パタン、と扉の閉まる音を聞きながら、ベッドで待ってるだなんて…とダンテの言葉に何とも言えない顔をしつつも、リアラは閉まった扉を見つめる。
「……」
先輩である魔女から言われた言葉が脳裏に浮かぶ。
私、だから。
「…私だって、ダンテのことが大切だよ」
契約しているパートナーだからではなく、それ以上に大切な。彼も、そう思ってくれているなら。
リアラの想いは誰にも聞かれることなく、静かな空間に溶けて消えた。
***
2018.5.16
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