▽ 小さな君 9
『ピィィィッ!!!』
「っ!」
魔獣は大きな鳴き声を上げ、同時にその身体から無数の電気の帯が放たれる。その内の一つが魔獣に向かって伸ばしていたリアラの手に当たった。
「−っ!!」
腕を伝って身体全体に電流が走る。強力な電気は筋肉を硬直させ、一瞬だが身体の感覚を奪った。
その一瞬が、命の危機を招いた。
「−っ!」
『リアラ!!』
感覚のなくなった手が杖を落とし、感覚のなくなった足が枝の上を滑り、身体が傾く。すぐに筋肉の硬直は解け、とっさに枝に手を伸ばすが痺れが残っていて上手く動かせない。自分の属性では魔法を使っても衝撃は緩和できない。大怪我を覚悟してリアラがギュッと目を瞑った、その時。
バチン!
何かが弾ける音がして、次いでバサリと羽ばたく音が耳に届く。以前も感じたことのある身体を包み込む温かさにリアラが目を開けると、人型に戻ったダンテがこちらを見下ろしていた。
「間に合った…」
はー…と長いため息を吐き出すと、ダンテは怒り混じりの声でリアラに言う。
「さっき、俺と同じ魔獣だから気をつけろよって言ったよな?」
「ご、ごめんなさい…」
ビクリと肩を震わせてリアラが謝罪の言葉を口にすると、今度は短いため息を吐いて、ダンテは首を振った。
「…いい、あれは俺も予想外だった。あれだけ強力な魔術を使うとは思わなかったからな」
『ノーマル』とはいえ、追い詰められれば普段以上の力を発揮するということか。今度からはもう少し警戒しよう、と決めたダンテはリアラに問いかける。
「身体はどうなんだ?」
「まだ少し痺れが残ってる、かな。もう少ししたら治ると思うけど…」
自分の手をじっと見つめてリアラは答える。まだ電気が走った感覚が残っていて、指先が軽い痙攣を起こしている。そうか、と返して、ダンテは上を見上げる。
「にしてもあの野郎…怯えてるせいとはいえ、リアラが怪我するところだったじゃねえか」
不機嫌そうに細められた目は見るからに怒りの感情が浮かんでいて、微かながらもその身体からは殺気が放たれている。それに気づいたリアラは慌ててダンテを止める。
「待って、ダンテ!殺気なんて向けたら、あの子怯えちゃう!」
「少しくらいビビらせておいた方がいいだろ、下手したらお前が大怪我するところだったんだからな」
「っ、それはそうだけど!あの子が怯えて逃げたら、また見つけるのは難しいし、いつか人間に見つかっちゃうわ!そうなったら…!」
「わかってる」
必死に自分を説得しようとするリアラにダンテは優しい笑みを向ける。先程の殺気が嘘のように消えていて、え、とリアラは思わず目を瞬かせる。
「少しお灸を据えてやっただけだ、自分より弱い奴に本気になるような大人気ねえことはしねえよ」
ただし、リアラに怪我をさせたら話は別だが。後に続く言葉は口にはせず、ダンテは一度地面に降りるとゆっくりとリアラを下ろす。
「とはいえ、またお前が行ったら怪我しそうだからな、今度は俺が行ってくる。そこで大人しくしてろよ」
「う、うん」
頷くリアラの頭にポン、と手を置くと、ダンテは翼を羽ばたかせ、未だ木の上にいる魔獣の元に向かった。
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