▽ 小さな君 5
「リアラは彼のことをとても信頼しているのね」
「え?」
他の魔女達の中に混ざり、お茶の準備をしていた中、主催者の魔女に言われた言葉にリアラは紅茶を淹れていた手を止める。
「さっき、彼に自分の杖を預けていたでしょう?杖は魔女にとってとても大切な物、それを預けるということは余程のことがない限りできないわ。魔女の中には決して自分の杖に触らせない人がいることは貴女も知っているでしょう?」
「はい」
「それを、貴女は彼に預けた。つまり、貴女は彼がそれを悪用しないと信頼した上で預けたということ。違うかしら?」
「…いいえ」
リアラはふるふると首を振る。彼女の言う通りだったからだ。
彼の優しさを知っている。自分の過去を知った上で契約してくれたこと、自分のことを考えた上で行動してくれること、自分を優しい人だと言ってくれたこと、自分を心配してくれるがゆえに怒ったこと。自分を見る目が、頭を撫でてくれる手が、紡がれる言葉が優しいのを知っている。誰が何と言おうと、自分にとってそれだけで充分だった。信頼する理由になりえた。黙ってしまったリアラに魔女は慌てたように言う。
「ああ、責めているわけじゃないのよ。ただ…嬉しくてね」
「嬉しい…?」
「ええ、貴女が信頼できる人ができたのが嬉しくて。最初、貴女からパートナーができたと手紙が来た時は驚いたわ。けれどここに来た貴女と彼を見ていて、お互いを思いやっていると感じたの。だからよかったって安心したわ。貴女にも傍にいてくれる人ができたんだって」
それにお友達も増えたようだしね、と魔女は優しく笑う。
「よかったわね、リアラ」
「…はい。ありがとうございます」
顔を綻ばせ、リアラは頷く。改めて、自分には心配してくれる人がいるのだと思えた。
紅茶を淹れるために止めていた手を動かそうとした、その時だった。
「うわっ!?」
「!ダンテ!?」
リビングから聞こえたダンテの声にリアラは顔を上げる。他の魔女であればキッチンの賑やかさでかき消されてしまって聞こえないだろうその声は、魔獣の血をひくリアラの耳には小さいながらもはっきりと聞こえた。手に持っていたティーポットを置き、リアラは慌ててキッチンを出る。
「ダンテ、どうし…」
「わー、おじちゃんがちいさいとらさんになったー!」
「かわいいー!ねえ、わたしにもさわらせてー!」
「…え?」
急いでリビングに戻ってきたリアラが見たのは、子供達の間で引っ張りだこになっている小さな魔獣姿のダンテだった。
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