▽ 小さな君 1
「よし、これで終わりね」
採ってきた薬草を干し終え、リアラは頷く。
梅雨の時期を過ぎ、気温が上がって晴れの日が続く今は薬草を干すのに絶好の日和だ。夏の間は時間がある時に薬草を採って干して在庫を増やしてはいるのだが、同時に配達の仕事が多くなる。一番忙しい時期だ。
空になった鞄を持ち上げたところで、床にあるベランダの出入口からダンテが顔を出した。
「リアラ、薬草庫に薬草全部入れてきたぞ」
「あ、ありがとう、ダンテ。助かったわ」
「これくらい大したことじゃない。そっちは終わったか?」
「うん、今ちょうど終わったわ。そろそろお昼ご飯にしようか」
「ああ」
ダンテの後に続き、リアラも梯子を下りる。自室を通ってリビングに出ると、コンコン、と窓をつつく音が聞こえた。振り返ると、手紙を持った梟が嘴で窓をつついている。
「梟便?誰からだろう…」
首を傾げながらもリアラは窓へ向かう。窓を開けて梟を招き入れると手紙を受け取り、リアラは差し出し人を確認する。
「あ!」
「ん?どうした?」
「私の先輩の魔女さんからだわ。久しぶり…三ヶ月ぶりかしら」
そう言うリアラは嬉しそうな顔をしていて、彼女にとって大切な人なのだとわかる。白い封筒から便箋を取り出すと、リアラは書かれている文章を目で追う。
「何て書いてあるんだ?」
「来週、村で見習いの魔女達を集めて勉強会を開くから、教える側として来てほしいって。そっか、勉強会か…」
「リアラは参加したことがあるのか?」
「うん、教える側でね。十年くらい前に薬草の配達の仕事で会った時、今みたいに勉強会に教える側で参加してほしいって頼まれて参加したのが始まり。それからは用事がない時はなるべく手伝うようにしてるの」
「そうなのか。で、今回はどうするんだ?」
「今のところ用事はないから、参加するよ。…あ、よかったらパートナーの方もご一緒にどうぞ、って書いてある。せっかくだからダンテも一緒に行こう」
「俺もか?」
「うん。この村、優しい人が多くてとてもいいところだよ」
彼女から誘ってくるなんて珍しいことだが、たまにはこういうのもいいかもしれない。柔らかな笑顔を浮かべるリアラにダンテも優しい笑顔で返す。
「そうだな、せっかくのお誘いだから一緒に行くか」
「よかった、じゃあ、さっそく返事を書いてくるね」
「ああ」
嬉しそうに笑って自室へと向かうリアラの後ろ姿を、ダンテは優しい目で見つめていた。
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