▽ 知らない感情 23
「…まあ、おっさんはそんなことしないだろうけどな。リアラのこと、気に入ってるみたいだし」
「ん?何でそう思う?」
「リアラの髪に付いてた薔薇、あれおっさんが魔力で作ったもんだろ。何も思ってない奴にあそこまでしてやらねえよ」
「坊やは目敏いな」
「ただでさえおっさんの魔力は強いんだ、見なくたってわかる。魔獣であれに気づかないのはバカだろ」
それに、見方によっては自分の存在をわからせ、他の魔獣に牽制をかけているように見える。そうネロが指摘すると、ダンテは虚を衝かれたような顔をした後、思案しながら呟く。
「…そこまで考えてなかったが、それでもいいかもな。あいつが傷つかないのなら、それに越したことはない」
やけに真面目な声で返され、ネロは目を瞬かせる。これは、もしかすると…
(俺が思ってるよりも、リアラのこと大事に思ってるのか…?)
いつもふざけた態度を取るダンテがこんな姿を見せるなんて初めてだった。どう声をかけようかネロが迷っていると、キッチンに行っていた二人が戻ってきた。
「お待たせしました」
「二人共、お待たせ」
キリエはミルクレープ、リアラは紅茶の入ったティーカップの乗ったトレーをそれぞれ持っている。各々の席の前にそれを並べ始めた二人を横目に、ネロは向かいに座るダンテを見やる。先程の会話などなかったかのように口元に笑みを浮かべるダンテはいつもと同じ表情に見える。けれど、リアラを見るその目は優しい色をしていて。
(まさか…な)
自分がキリエに向けている感情と、ダンテがリアラに向けている感情が一緒だなんて。頭を振ってその考えを打ち消したネロに声がかけられる。
「どうしたの、ネロ?考えごと?」
「!あ、いや…」
首を傾げて尋ねてくるリアラにネロは慌てる。リアラの後ろに見えるダンテはニヤニヤと楽しそうに笑みを浮かべている。相変わらず腹の立つ奴だ。
(気のせいだ、気のせい)
あんな奴のことを考えるだけ無駄だ。そう考え、ネロは気持ちを切り替える。
「悪い、大したことじゃないから気にしないでくれ。それより、準備できたなら食べようぜ」
「あ、そうだね」
頷き、リアラは自分の席に着く。キリエも自分の席に着いたところで四人はお決まりの言葉を口にする。
「「「「いただきます」」」」
温かな雰囲気の中、話を楽しむ四人の明るい声が部屋に響いていた。
***
2018.3.25
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