▽ 知らない感情 20
「ダンテ、お待たせ」
「お、終わったか」
「うん」
昼食の片付けを終わらせたリアラがリビングに顔を出すと、ダンテが座って待っていた。立ち上がったダンテにリアラは近寄る。
「やることって何?何か準備するものあったかな?」
「いや、俺個人の用事だ。すぐ終わるからちょっと後ろ向いててくれないか?」
「?うん」
言われるままにリアラが後ろを向くと、ダンテが動く気配がし、次いで彼の魔力を感じた。何か魔術を使ったようだ。
「終わったぞ。風呂場行って、鏡見てこい」
「?うん」
首を傾げながらも頷き、リアラはバスルームに向かう。洗面台の鏡で自分の後ろ髪を映したリアラは目を見開く。
「!」
髪を結っている赤いリボンの上に、小さな白い薔薇が咲いていた。生花であろうその花は茎の部分が上手く絡まっているのか、髪飾りのようにしっかりとくっついている。
急いでバスルームの扉を開けたリアラはこちらに気づいたダンテに尋ねる。
「ダンテ!あの、これ…」
「…まあ、リボンだけだと飾りっ気がないからな。髪は元通りになったが髪留めは壊れちまったし、元はといえば俺のせいだしな。お前が気にしてなくても何かしら詫びをしないと気がすまなかったし…」
あー、慣れないことしたな、と頭をガシガシと掻く彼は照れているようで、珍しい表情にリアラは目を丸くする。でも、それと同時にじわじわと嬉しさが込み上げてきて、今までに感じたことのなかった感覚に首を傾げる。
(あれ?何だろう、この感覚…)
「リアラ?」
名前を呼ばれ、リアラははっと我に返る。顔を上げると、ダンテが心配そうにこちらを見ていた。
「どうした?…気に入らなかったか?」
「ううん、違うの!その…すごい嬉しいな、って」
そう言ってへにゃりと笑ったリアラに今度はダンテが目を丸くする。何となく気恥ずかしくなってしまい、ダンテは視線を逸らす。
「…そうか。気に入ってもらえたのなら、よかった」
「うん。ありがとう、ダンテ」
「…ああ」
戦うための力をこうやって自分のために使ってくれたのが嬉しい。リアラはダンテの手をそっと掴み促す。
「そろそろ行こうか。キリエに紅茶を買っていかないと」
「…そうだな」
彼は驚いた顔を見せたが、すぐに優しい笑顔で応えてくれて。自分も笑顔を返して、リアラは歩き出した。
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