▽ 知らない感情 17
「ん…」
耳に届いた小鳥の囀りに、リアラは目を開ける。
(あれ、私、いつの間に寝ちゃったんだろう…)
ダンテと話していたところまでは覚えているのだが、その後の記憶が曖昧だ。その辺りで寝てしまったのだろうか、そう思いながら身体を起こそうとして、リアラは身動きが取れないことに気がついた。
(何か、身体の上に乗ってる…?)
それに、何だかやけに温かいような…。
リアラが内心首を傾げていると、突然何かにギュッと抱きしめられた。
「っ!?」
驚きで完全に目が覚めたリアラは、隣りにいる気配にようやく気がついた。この慣れ親しんだ気配は…。
(ダンテ…!?な、何で隣りにいるの…!?)
視線を上げた先には、長い銀色の睫毛に縁どられた瞼を閉じ、すやすやと気持ちよさそうに眠るダンテの顔があった。と、いうことは自分の身体に乗っていたのは彼の腕であり、今、自分は彼に抱きしめられていることになる。
「〜っっっ!!?」
状況を理解して、瞬く間にリアラの顔に熱が集まる。
(え、なんでこんな状態になってるの!?それに、ち、近い…!)
近いどころか抱きしめられていることで身体が密着していて、彼の熱を直に感じてしまう。抜け出したくても抱きしめる腕の力は強く、女の自分では抜け出せない。
(起こすのは申し訳ないけど、このままだと朝ご飯も作れないし、薬草の配達にも行けないし…)
悩んだ末、リアラはダンテの肩に手を伸ばす。
「ダンテ、起きて」
「んん…」
何度か肩を揺らすと、低く呻いた後、ゆっくりとダンテは目を開けた。
「ん…おはよう、リアラ…」
「おはよう、ダンテ。起こしてごめんね、朝ご飯作りたいから離してもらっていいかな?」
「もう朝か…」
眠たそうに大きな欠伸をしたダンテはリアラの上から腕をどける。身を起こしたリアラはダンテの身体を踏まないようにベッドから立ち上がる。
「まだ眠たかったら寝ててもいいよ」
「ん…でも、今日も配達があるんだろ?」
「うん、でも、今日は件数が少ないし、すぐ終わるよ。ダンテ、夜遅くに帰ってきて疲れてるでしょう?今日はゆっくり休んで、朝ご飯も起きてからでいいから」
「そうか…悪いな、そうさせてもらう…」
眠くて仕方がなかったのだろう、目を閉じると数分もしないうちに寝息が聞こえてきた。労わるように彼の頭を撫で、リアラは微笑む。
「おやすみ、ダンテ。…お疲れ様」
本当に、自分のためにありがとう。彼の頭から手を離し、リアラは踵を返すとクローゼットを開け、服を取り出す。朝食を作る前にまずは着替えなければ。足音を立てないように歩いて部屋の扉の前まで行き、静かに扉を開ける。一度後ろを向いて眠るダンテに微笑みかけた後、ゆっくりと扉を閉めた。
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