▽ 知らない感情 10
(ダンテ、帰ってこないな…)
読んでいた本から目を離し、リアラは時計を見やる。時刻は12時に差しかかっていて、もう数分もしたら日付が変わる。
(今日も、帰ってこないのかな…)
ダンテが出かけてから今日で三日目になる。書き置きに書いていた日数は二、三日。書いていた通りならば、今日には帰ってくるはずだ。いつ帰ってきてもいいように、料理は作ってある。今日の夕食はダンテの好きなピザとストロベリーサンデーだ。
「……」
パタンと本を閉じ、リアラは椅子から立ち上がる。リビングを抜けて自分の部屋に入ると、机に本を置いてベランダへ続く梯子を登る。ベランダの手すり越しに空を見ると、数え切れない数の星が輝いていた。
(ダンテと喧嘩した時も、こんな感じの空だったな…)
あの時を思い出して、気持ちが沈む。今でも自分のせいだと思う気持ちで一杯で、ちゃんと謝りたいと思っている。
(ディーヴァも若も帰ってくるって言ってたし、大丈夫、だよね…)
二人を疑っているわけではないし、ダンテのことも信じているけれど、どうしても不安で。手すりを掴む手に力がこもる。
(…大丈夫、だよね…)
リアラが顔を隠すように俯いた、その時。
バサッ
『こんなところで何やってるんだ、お前!』
「え…」
羽ばたきに次いで聞こえた声に、リアラは顔を上げる。三日間ずっと考え続けていた人が、目の前にいた。
『まさかずっとここにいたんじゃないだろうな!?風邪引くぞ!』
「え、ううん、さっき来たばっかりで…」
珍しく焦ったような声音の彼の勢いに押されながらも、律儀に答えたリアラは首を振る。
「違う、そうじゃなくて…」
『…?』
「…おかえり、ダンテ」
いざ彼を目の前にして一番最初に言いたいと思ったのは、謝罪の言葉ではなく、出迎えの言葉。いつも彼が帰ってきた時に言う言葉、日常の言葉。安堵したようにへにゃりと笑って言ったリアラにダンテは目を見開くと、次には長いため息をつく。
『…とにかく中に入るぞ。こんなところにいたら本当に風邪引いちまう』
「え、あ…」
ベランダに降り立つと同時に人の姿に戻ったダンテはリアラの手を引く。戸惑いつつも、リアラは引かれるがままに彼の後についていった。
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