▽ 知らない感情 7
「すみません、これをください」
「これだね、毎度あり!そういえば今日はあのお兄さんがいないね、どうかしたのかい?」
「ああ、彼は今出かけていて…」
「そうなのかい、いつも二人で来ていたから何だか寂しいねえ。今度はぜひ二人で来てくれよ」
「はい、ぜひ」
店主に手を振り、リアラは店を出る。
(今度は二人で、か…)
赤いレンガで彩られた道を歩きながら、リアラはぼんやりと考える。
(いつの間にか、二人で来ることが当たり前になってたな…町の人達もそう思ってるし…)
魔獣に攫われたあの一件以来、仕事の時もそうじゃない時もダンテはついてきてくれるようになった。毎日ついて来てくれるので、一度はゆっくりしててもいいんだよ、と言ったのだけど。迷惑なんかじゃないから気にしなくていい、と返され、嫌な顔一つしなかったから、つい甘えてしまって、彼が一緒にいるのが当たり前になってしまった。町の人達も彼に好意的だったからそれを当たり前のように受け入れて、仲がいいね、とか、中には話に聞いていたゼクスさんとフィーリアさんのようだ、と言う人もいた。
(そんなに仲よく見えたのかな…)
あまり意識はしていなかったのだけれど。彼は何かと気遣ってくれるから、ついつい甘えてしまっていたのかもしれない。頼ってしまっていたのかもしれない。…だから、呆れられてしまったのかもしれない。
(帰ってきて、くれるかな…)
あのメモに書かれていたことを思い出して、リアラが俯いた、その時。
「!」
「やっぱりリアラさんだ!ねぇ、その髪どうしたの!?」
突然スカートを引っ張られ、驚いたリアラが後ろを振り返ると、エメラルドティントの髪にエメラルドの目をした女の子がいた。−ディーヴァだ。
「え、ディーヴァ!?どうしてここに…!」
「紅茶を買いにここに来たの。後でリアラさんのところに寄ろうと思ってたら、リアラさんを見つけて…ねぇ、その髪どうしたの!?」
先程と同じ言葉を繰り返し、スカートを引っ張るディーヴァに戸惑っていると、横から伸びた手が彼女の手を止めた。
「とりあえず、スカート引っ張るの止めろ。服が伸びちまうだろ」
「あ、うん、そうだね…」
我に返ったディーヴァはゆっくりと手を離す。
ディーヴァを止めたのは彼女のパートナーであるダンテだった。名前で呼ぶと自分のパートナーと被ってしまうので、リアラは彼ら兄弟の間で使われている通称の『若』で呼んでいる。
「若…」
「悪かったな、驚かせて。お前を見つけたのはオレなんだが、それを話したらディーヴァが後を追っかけに行っちまってな」
「そうなんだ…」
ようやく今の状況を理解できたリアラをじっと見つめ、ダンテは問う。
「…で、その髪どうした?何かあったんだろうが…兄貴がいないのと、関係があるのか?」
「あ…えっと…」
どう説明したものか困ったリアラはしばし考えた後、苦笑しながら答えた。
「ちょっと、いろいろとあって…。詳しい話は家でするから、ついて来てもらってもいいかな?」
「わかった」
頷く若と心配そうな顔をするディーヴァを連れて、リアラは町の出口に向かって歩き出した。
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