▽ 知らない感情 5
星が瞬く夜空を風を切って駆ける。心地よい風を感じながら、リアラはダンテに話しかける。
「あの子、無事にお父さんのところに戻れてよかったね。これ以上犠牲者が出なくてよかった」
『…ああ』
笑って言うリアラに対し、ダンテは無表情で短く答える。
あの後、村に戻り、依頼主である男性の元に向かった。二人を出迎えた男性はリアラの姿に驚き、少女に至っては泣きそうな顔をしていた。リアラは大丈夫だと少女を宥め、男性に事の経緯を説明した上で、もう村の人々が魔獣に襲われることはないと告げた。何度も頭を下げてお礼を言う男性にリアラはよかったと微笑み、男性が用意した報酬も少ししか受け取らなかった。それどころか、男性が薬を作っているためか、自分は薬草の採取と配達もしているから必要な時は利用してほしいと言った。男性も少女も驚いていたが、頷いてお礼を言い、彼らに見送られて二人は村を出た。
「けど、あの人達に心配させちゃったのはよくなかったな。気をつけなきゃ」
『……』
自分のせいだと反省する彼女の言葉に、心の中がもやもやする。どうして、そんなに他人のことばかりを心配するのか。自分のことは心配しないのか。
ダンテの様子が普段と違うことに気づき、リアラは遠慮がちに呼びかける。
「…あの、ダンテ?」
『…お前は、自分の心配をしないのか?』
「…え?」
『他人のことばっかり心配して、お前は自分のことをこれっぽっちも心配しない。少しは自分の心配をしろよ、自分の命は大切じゃないのか?』
「自分の、命…」
怒り混じりに言われた言葉に、リアラは俯く。考えたことも、なかった。自分は周りに迷惑をかけるとばかり思っていたから。
自分の、命。
「………」
『………』
お互いに言葉を発することなく、重い空気の中、二人は家路に着いたのだった。
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