▽ 知らない感情 4
パキン…パキ、バキバキッ
『!』
『なっ…!』
何かが割れるような音がしたかと思うと、瞬く間に辺りが凍りついた。予想外のことに判断が遅れた魔獣は迫り来る氷の波に飲まれ、両足がその場に縫い止められてしまった。
「…」
リアラが魔獣の方を振り返る。黙ってはいるが、その後ろ姿は他を威圧するような雰囲気をまとっていて、パートナーであるダンテですら近寄れるような状況ではなかった。これ程までに激昂した彼女を見るのは初めてだった。
「……」
『ひっ…!』
一歩一歩近づく彼女に自分と同じようにその雰囲気を感じ取ったのだろう、魔獣は短く悲鳴を上げる。
魔獣の目の前で足を止めると、リアラは顔を上げる。その目には鋭い光が宿っていた。
「…まだ、食べ足りないか?」
『−っ』
「あれだけの人間を食べて、まだ餌を求めるか?一体、何人の人間を食べたら気が済む?」
自身より小さく、腕を一振りすればすぐに死んでしまいそうな命なのに、まるで同族を相手にしたような圧力を感じる。恐怖に呑み込まれてしまった魔獣にリアラは冷淡に告げる。
「…どうであれ、いくつもの命を奪ったお前を許すことはできない。ケルベロスの監獄塔で裁きを受け、その命をもって罪を償え」
言い終わると同時に、少女を乗せて飛ばしていた杖が戻ってきた。ゆっくりと手元にやってきた杖を持つと、リアラは杖の先端を魔獣に向ける。
「…だが、その前にお前に食べられた人達の痛みを知ってからだ」
『…っ!?−っっっ!!!』
地面から飛び出した鋭い氷柱が、魔獣の口を貫く。血が、辺りに飛び散る。痛みに叫ぼうとするが、口が塞がっていて声を出すことさえできない。リアラはもがく魔獣に静かに銃口を向ける。
「その痛みを心に刻んで行け」
パン、と銃声が響く。弾にこめられた転移魔法により、魔獣はその場から姿を消した。
『……』
無言で魔獣の消えた場所を見つめる彼女の後ろ姿を、ダンテは黙って見つめていた。
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