▽ 知らない感情 3
金属がぶつかり合うような甲高い音が響き渡る。魔獣は影で、リアラは魔法で衝突を繰り返していた。
「っ…!」
『チッ、しぶとい奴だ!』
なかなか倒れない獲物に魔獣は舌打ちする。リアラはというと、度重なる魔力の消費と戦いによる体力の消費で息が上がってきていた。
(強いわね…。本来は『ゴールド』なんだろうけど、『プラチナ』に近い魔力の強さ…やっぱり、人間を食べたのね)
少女を見つけた時に彼女の周囲に散らばっていた服の切れ端。あれは、魔獣が森に入った女性達を食べた跡なのだろう。
下位の魔獣が力を得るために人間を食べることは珍しいことではない。だが、人間を食べることは魔界では禁忌とされている。ケルベロスの監獄塔では、同族を食べた罪に次いで重い罪として刑が下される。
だが、それよりも、何よりも。
(命は、簡単に奪っていいものじゃない…!)
魔獣から距離を取り、リアラが銃を構えた、その時。
『リアラ!』
「ダンテ!」
後ろから聞こえた声にリアラは振り返る。灰色の翼を羽ばたかせ、こちらへ向かってくる白い魔獣の姿に安堵し、リアラは微かに笑みを浮かべる。
だが、その隙を魔獣は見逃さなかった。
『リアラッ!』
ザンッ
「!」
ニイッと口の端を吊り上げた魔獣に気づき、ダンテが口を開くが遅く、影の刃が髪飾りごとリアラの髪を切る。切り落とした髪の束を自分の元へ引き寄せると、魔獣は口を開けて髪飾りごと髪を食べた。バキ、グチャ、とおぞましい音が辺りに響く。
『ああ、さすが魔女の髪は旨いな、力が湧いてくる…。次はどこを喰らってやろうか、目か?腕か?それとも足か?』
『テメェ…!』
愉悦の表情を浮かべる魔獣に激昂し、ダンテが足を踏み出そうとした、次の瞬間。
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