▽ 知らない感情 2
「お姉ちゃん…?」
「もう少しで家に帰れるからね」
首を傾げる少女にそう告げると、リアラは杖に手をかざし、呪文を唱え始める。杖が淡い、水色の光に包まれる。しばらくしてゆっくりと手を下ろすとリアラは少女を見上げる。
「今、杖にあなたの家まで行くように魔法をかけたわ。この杖に乗っていれば、家に帰れる。速さを上げる魔法もかけたから、掴まっているのは大変かもしれないけれど…もう少し、がんばれる?」
「…うん」
「いい子ね」
目を細め、リアラは頷いた少女の頭を優しく撫でてやる。魔獣はすぐ近くまで迫ってきていて、結界を壊そうと身体をぶつけている。
「魔獣のことは考えないで。家に帰ることだけを考えるのよ。さあ、行って!」
杖の端をトン、と押すと、少女を乗せて杖は空高く飛び上がる。彼女の姿が見えなくなるまで見送ったリアラは、バリン、とガラスが割れたような音に後ろを振り返る。
『俺の獲物が…!魔女め、よくもやってくれたな…!』
「あの子はあなたの餌じゃないわ。帰る場所も、待っている人もいる…その命をあなたの自己満足で奪おうとするなんて、自分勝手にも程があるわね」
『黙れ!俺の獲物を奪ったんだ…代わりにその命を差し出してもらうぞ!』
「できるならね」
左脚のホルスターから銃を取り出し、リアラは魔獣と対峙する。少女を家に送り届けた後にこちらに戻ってくるように杖に魔法をかけているからしばらくしたら戻ってくるだろうが、杖に三重にかけた魔法に加え、魔獣から逃げる時にも幾度も魔法を使っているため、それ程魔力は残っていない。せめて、杖が戻ってくるまでは耐えなければ。
『生意気言いやがって…その口、いますぐ塞いでやる!』
魔獣が自分に向かって飛びかかる。迫る魔獣に向けて、リアラは銃を構えた。
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