落ちた先-1-

誰かが誰かを必死に呼ぶ声が、聞こえた気がした。


「…ん…」


ゆっくりと意識が浮上する。ぼんやりとした視界に映ったのは、一面の薄桃色。


(ここ、は…?)


目覚めたばかりで動きの鈍い頭は上手く働いてくれず、しばらくぼーっとしていた空だが、ここに来る前の出来事を思い出し、ガバッと起き上がる。


「っ、桜は…!わっ!」


起き上がった勢いで体制を崩し、慌てて近くにあった物を掴む。その手触りと色に掴んだ物が枝であることを知り、空は自分が木の上にいることを理解する。


「桜の、木…?だから、視界一面ピンク色だったんだ…」


自分の探している少女と同じ名前の木に不思議な縁を感じると同時に何でこんな場所に飛ばされたのかとため息をつきながら、空は木から降りる。ストン、と軽い音を立てて着地し、服の埃を払った時、空は今着ている服が普段と違う服であることに気がついた。


「うわ…何この服…」


視線を下げた先には袖のない白いブラウスに黒いショートパンツ、脚は灰色のストッキングに覆われており、膝下の焦げ茶の皮のブーツを履いている。腰は黒いコルセットで締められ、三段重ねになったスカートがふわりと揺れる。腕には肘上までの黒いアームカバーが嵌められていて、なぜか右には金色、左には銀色の錠前付きの鎖が絡まっている。首にも細い鎖でできた銅の鍵付きのチョーカーが付いており、髪は右側に流すように黒いリボンで纏められていた。


(ゴスロリ…程ではないわね。パンク…でもないし。ああでも、どっちにしろこの格好はない!)


この歳でこの格好って…とガックリと肩を落とす空の耳に、自分の名を呼ぶ少女の声が響いた。


「空さん!」

「!…桜!」


馴染んだ声に顔を上げると、そこには探していた少女の−桜の姿があった。こちらへ駆け寄ってくる彼女に自分も同じように駆け寄り、ギュッと抱きしめる。


「桜…無事でよかった…!」

「はい。空さんも無事でよかったです」


ひとしきり再会の感動を噛みしめると、空は桜に尋ねる。


「桜、ここはどこなの?私達のいた校舎とは違うみたいだけれど…」

「お話しすると長くなってしまうんですが…その前に中に入りませんか?立ったまま話しているのも疲れてしまいますし」

「そうね、そうしましょう」


桜の提案に頷き、彼女の後について空は校舎の中に入っていった。


 

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