壊れゆく日常-1-
いつもと変わらぬ、無機質な陽射しが窓から射し込む。代わり映えのしない外の景色をぼんやりと眺めながら、女は考えごとをする。
(5回戦も終わり…あと二回でこの聖杯戦争も終わりを迎える…)
本戦が始まった頃には128人いたマスターも今ではごく僅か。マスター以外にこの校舎に存在するのはマスターに付き従うサーヴァントとムーンセルの作り出したNPC達、そして、代理観測者である自分のみ。少しずつ、だが確実にこの聖杯戦争が終わりに近づいていることを告げている。
(現在残っているマスターは西欧財閥の時期総帥であるレオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ、西欧財閥に敵対しているレジスタンスに所属する遠坂凛、アトラス院の最後のホムンクルスであるラニ=[…)
参加者の名前を挙げ連ねる中、一度思案するように目を閉じ、女は言葉を続ける。
(そして…岸波白野)
魔術師としては未熟な彼女。自分の名前以外の記憶を無くしているらしく、聖杯にかける願いも思い出せぬまま戦ってきた、この殺伐とした場には不釣り合いな人物。だが、幾たびの戦いを重ね、様々な経験を経た彼女は大きな成長を遂げ、今では優勝候補の一人となっている。
(西欧財閥の暗殺者であり、レオナルドの補佐をしていたユリウス・ベルキスク・ハーウェイを倒してしまうなんて…)
戦闘においては多くの経験と高い実力を持つ彼が彼女の相手に決まった時は、これは一筋縄ではいかないだろうと予測していた。けれど、彼女が勝ったことに驚きはしたものの、彼女が負けるとは思っていなかった。
(生きたいという願いは、何よりも強い。…それを、わかっていたからかしら)
生前の経験ゆえに無意識にそう思っていたのかもしれない。
それに。
(『彼』がいるから…)
彼女に付き従う、赤い外套を着たサーヴァント。初めて彼の姿を目にした時、心が揺さぶられたのを覚えている。
「…だめね。観測者なのに、こんなに傾倒してしまうなんて」
敢えて言葉にして今までの考えを振り払う。自分は観測者。どちらにも傾かずに中立の立場で物事を見てムーンセルにー彼に、伝えなければいけない。
(とはいえ、報告しなくとも彼は分かっていると思うけど)
熾天の座でこの世界を見続けている彼は全てを知っているだろう。時々校舎にも出没しているようだし。
(けれど、これが仕事だもの、仕方ないわよね。…早く報告しに行こう)
自分を納得させ、移動のために女は光の粒子と共に姿を消した。