落ちた先-10-
「おそらく彼は後方支援のためにここに残るのでしょう。支援、というのは色々と技術を必要としますから」
「彼女の言う通りです。実際問題として、バックアップにはボクとサクラ二人でも足りない程です。なにしろ未知の領域ですから。つねに白野さんをモニターしつつ、いざとなればこちらにログアウトさせる……その手の魔術師(ウィザード)スキルを岸波さんは持っていないでしょう?」
「確かに…」
レオの言う通り、自分にそんな器用な真似は出来ない。なにしろサーヴァントと契約しているだけで精一杯なのだ。
「わかった。私とアーチャーで行ってくる」
「理解が早くて助かります。こちらの準備は先ほど整いました。バックアップは生徒会室で行います。白野さんは桜の樹へ向かってください。ゲートはサクラが開いてくれます」
「……………はい。管理者権限で樹の中に入るゲートを作りました。後は岸波さん次第です」
話がまとまりかけたところでガトーが口を挟む。
「小生が行ってはいかんのか?」
「やめておけ。サーヴァントがいないマスターでは返り討ちになるだけだ。アリーナである以上、エネミーはいる。オレやおまえでは……いや、オレやおまえなら一体は倒せるとしても、それが限度だ」
ガトーはむう、と残念そうに押し黙った。隣りにいる空は呆れたようにため息を吐いている。
「以上です。校庭に向かってください。サクラ迷宮、初突入ミッションを開始します。いわゆる処女航海というヤツですね」
そうレオが言った途端、桜が顔を真っ赤に染め、困ったように視線を彷徨わせる。
「あ、あの……そういう言い方は、ちょっと……」
「?なぜです?きわめてノーマルな単語をチョイスしたのですが」
(その選んだ言葉が問題なんだけど…)
首を傾げるレオに言い辛そうに顔を隠す桜。それを見ていた空は心の中でため息を吐く。桜の言いたいことを察したのか、レオの隣りにいたガウェインが彼に声をかける。
「レオ。レディが問題視しているのは……」
レオの耳元に顔を寄せ、ガウェインは桜が顔を赤くしている訳を伝える。ようやく理解したらしく、レオはああ、なるほど!と声を上げる。
「確かにそういう意味にも聞こえました!でも、それに何の問題が?別に、サクラの貞操と迷宮の踏破率は無関係ですし。名前が一緒だからですか?」
「い、いいです、蒸し返さないでくださいっ!岸波さん、早く校庭に!この一連の会話は無かった事にしてくださいっ……!」
(ちょっとデリカシーがないわね…それとも、単純に思ったことを口にしているだけかしら?)
こんなので大丈夫だろうか、とこの先を憂う空だった。