落ちた先-7-
「……」
大きく手を振る白野に小さく手を振り返し、校舎に戻る彼女を見送った空は安堵の息をつく。
(よかった、残っていたんだ…)
彼女が聖杯戦争に残っていたことを嬉しく思う。気持ちが顔に出てしまえば不審がられるから、顔には出さなかったが。
(…まあ、今の私じゃ顔に出たとしてもわかりにくいけど)
脳裏に浮かんだ昔の自分の姿に、はぁ、とため息をつく。自分のことはいいんだと払うように頭の隅から追いやり、空は頭上の桜を見上げる。
(…本当は、あのままついて行ってもよかったんだけど)
そう、本当はあのまま彼女について行ってもよかった。情報を整理するのなんて後で時間ができた時にでもやればいいことだ。…けれど。
(この気持ちを落ちつけなきゃ、彼と話してもちょっとしたことで顔に出てしまいそう。…ううん、絶対顔に出る)
小さく痛みを訴える心を押さえつけようと、胸元に置いていた手に力がこもる。
こちらに近づく気配を感じた時にわかっていたけれど、実際に近くで、正面で見てしまうと冷静ではいられなかった。−『彼』を思い出すには、充分過ぎる姿だったから。きっと、気持ちが顔に出てしまっていただろう。
(大丈夫、聞かれてもごまかせばいいんだから)
大丈夫、と自分に言い聞かせて、深く息を吸い込む。ゆっくりと息を吐いて、よし、と気持ちを切り替えた空は身を翻す。
「そろそろ行きますか」
あまり彼女を待たせるわけにはいかない。霊体化した空は校舎へ向かって歩き出した。