落ちた先-6-

「…何か?」

「いや。ところで、お前は聖杯戦争中の記憶はあるのか?」

「…いえ、残念ながらありません。本選のみならず、予選のことも思い出せない状態で…思い出そうとすると頭が痛むんです。覚えているのはここに来る前のことくらいで、それさえもぼんやりとしていてはっきりとは思い出せなくて…辛うじて思い出せたこともあるんですが、推測を立てるくらいしかできない不確かなもので…」

「その辛うじて思い出せた事とは?」

「…本戦では一回戦毎に掲示板に自分の対戦相手が表示されるのは知っていますね?聖杯戦争に参加するマスター達は自分の対戦相手しかわかりませんが、私は代理観測者の特権で対戦の組み合わせが決まり次第順次連絡が来るので全ての対戦の組み合わせがわかるんです。…思い出した記憶の中ではそんなに人数はいなかったように思います。校舎内も人がまばらだったような気がしますし…4回戦か5回戦までは進んでいたんじゃないかと」

「なるほど…だが、その時校舎に残っていたマスターの名前や人数、対戦の組み合わせ内容ははっきりと思い出せない、と」

「ええ」

「でも、一つの手がかりになるかもしれない。教えてくれてありがとう、えっと…」

「ああ、クラス名では呼びにくいでしょう?仮名ではありますが、空という名前がありますのでそちらで呼んでください」

「空?それがあなたの名前?」

「ええ、真名でなくて申し訳ないですが。桜もその名前で呼んでいますから」

「空、か…いい名前だね」


白野の言葉にきょとんとした顔をした彼女−空は次の瞬間、微かに顔を綻ばせた。


「…ありがとうございます」


だが、それも一瞬のことで、あ、と何かに気づいた彼女がこちらに再び顔を向けた時には元の無表情に戻ってしまっていた。
空は首を傾げる。


「長話をしてしまいましたね。時間は大丈夫ですか?」

「あ、そうだ、そろそろ生徒会室に戻らないと。行こう、アーチャー」

「ああ」


アーチャーに声をかけ、校舎へ戻ろうと身を翻した白野だったが、ふと何かを考えるように足を止め、再び空の方を向いた。


「あなたに一つ、頼みがある」

「何でしょう?」

「さっき、レオの提案で校舎に残っているマスター同士で協力して月の表側に戻るために生徒会を発足したんだ。私はレオに頼まれて他のマスターに生徒会に参加してもらえるように声をかけている。あなたはマスターではなくサーヴァントだけど、聖杯戦争を観測してきた人としていろいろ見聞きしていて詳しいだろうし、その知識がここから脱出するための力になると思うんだ。…だから、あなたの力を貸してほしい」


こちらを真っ直ぐに見つめて言う白野の目をじっと見つめ返すと、空は静かに口を開いた。


「…わかりました。桜も貴女方に協力しているようですし、私も代理観測者としてこの状況を見過ごせません。私でお役に立てるのなら協力させて頂きます」

「ありがとう」

「情報を整理してから行きたいので、少しお時間を頂けますか?準備ができ次第そちらに伺います。生徒会なので、二階の生徒会室で間違いないでしょうか?」

「うん、大丈夫。じゃあ、私はレオに結果を報告しなきゃいけないから先に生徒会室に戻ってるね。また後で」

「はい、また後で」


頷く彼女に手を振り、白野はアーチャーを連れて校舎に戻った。




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