落ちた先-5-

「…何か用があったのでは?」


感情の見えない声に促され、はっと我に返った白野はまずは気になっていたことについて聞くことにした。


「…あの、あなたのマスターは?」

「唐突な質問ですね…人に尋ねるのならばまずは名乗るのが礼儀だと思いますが」


まあ、聖杯戦争じゃまずこんなことがありえないか、と呟く彼女に白野はああ、と頷く。


「確かにそうだね、ごめんなさい。私は岸波白野。こっちは…」

「…アーチャーだ」


ちらりとこちらを見た白野にアーチャーは大きなため息を吐きつつ、姿を現わす。あちらの様子を伺うと本当に名乗ってもらえるとは思っていなかったらしく、目を瞬かせている。


「…こちらが名乗ったのだ、そちらも名乗るのが礼儀だと思うが?」


腕を組んで先程彼女が言った言葉に皮肉を返すようにアーチャーが言うと、彼女ははっと我に返り、次には深々と頭を下げた。


「失礼しました、まさか答えて頂けるとは思わず…。私はオブザーバー、聞き慣れないクラス名でしょうが同じサーヴァントの貴方なら察しはつくでしょう?」

「Observer…『観測者』だと…?まさか、お前のマスターは…!」

「ええ、お察しの通り。私のマスターはムーンセル…貴方方の求める聖杯です。まあ、正確にはマスターというより雇い主、といった感じですが」

「ムーンセルがマスター…そんなことがあるの?」

「マスターと言っても関係はNPC達とそう変わりはありませんよ。私は聖杯戦争を見て、見た出来事全てをムーンセルに報告する…そういう役割ですから」


あとはアリーナでルール違反をするマスターやサーヴァントに警告するくらいですね、と彼女は続けた。


「なので、聖杯戦争の参加者であるマスターや付き従うサーヴァントの名前は全て知っているんです。本当は名前を聞く必要はなかったのですが…すみません、こういう性格なもので…」


月の裏側という、本来の聖杯戦争とは違った場所だからかもしれませんね、と申し訳なさそうに言う彼女に白野は首を振る。


「気にしないで、こっちも用事があるとはいえいきなりあんな質問をしてしまったし…」

「そう言って頂けると助かります。お詫びになるかはわかりませんが…私の知り得ることは全てお教えします。そちらの様子を見るに、情報を集めるためにこちらに来たのでしょう?とはいえ、私はつい先程目覚めたばかりなのであまりお役に立てないかもしれませんが」

「ついさっき?」

「ええ。最初、私はこの桜の木の上で目を覚ましました。木から降りて現状を把握しようとしていた時に私の存在に気づいた桜がここに来てくれたんです。その後、彼女の後について保健室に行き、彼女からこの場所…月の裏側についての説明を受けました。あ、保健室にいるAIの桜はご存知ですよね?」

「うん、よくお世話になってる。そっか、桜の知り合いなんだ…」

「知り合い、と言えばいいんでしょうか…お互いムーンセルから役割を与えられているので関わるのは必然なんですよ。NPC達も私のことを知っています。でも、そうですね…桜とはよく一緒にいるので、友人、と言えるかもしれません」

(AIと友人、か…)


不思議なサーヴァントだ、と内心思うアーチャーの視線に気づいたのか、彼女が首を傾げる。




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