落ちた先-3-

「桜…私、一つだけぼんやりとだけど、思い出したことがあるの」

「え?本当ですか!?」

「ええ。本戦では一回戦毎に掲示板に自分の対戦相手が表示されるでしょう?聖杯戦争に参加するマスター達は自分の対戦相手しかわからないけれど、私は代理観測者だから対戦の組み合わせが決まり次第順次連絡が来る…それは覚えてるよね?」

「は、はい」

「私、習慣で決定の連絡が来る度に組み合わせを確認して、その回の組み合わせが全部決まった時も再度確認するんだけど…」


朧げな記憶を辿りながら空は続ける。


「…そんなに人数はいなかったと思うわ。二枚しか表示されてなかったし、行の間隔がそれ程詰まっていなかったから。校舎内も人がまばらだったように思うし…4回戦か5回戦までは進んでいたんじゃないかしら」

「4回戦か5回戦…空さんの言う通りなら、だいぶ進んでいたことになりますね」

「ええ。でも、何でこんなタイミングに相手は私達をここへ連れてきたのかしら…?」

「情報が少ない今は何とも言えませんね。…そうだ、私、生徒会室に行かないと」

「生徒会室?」

「はい、レオさんが校内にいるマスターを把握したいとのことだったので校内のスキャンをしていたところだったんです。その時に空さんを見つけたので、つい外に…」

「そうだったの…。足止めしてごめんね、私のことは気にしなくていいから行ってきて。私は校内を回っているから」

「すみません、失礼します」


ぺこりと頭を下げると桜は姿を消した。
しん…と静まりかえった中で、空は再び考えに耽る。


(これでレオナルド・ビスタリオ・ハーウェイがここにいるのは確定ね。後は誰が残っているのか…)


聖杯戦争のことを覚えていないとはいえ、それはトーナメントの進み具合や組み合わせであって、参加しているマスター達の名前は把握している。


(遠坂凛やラニ=[は残ってそうね。後は…ユリウス・ベルキスク・ハーウェイに…)


校内にいそうなマスターを一人ずつ挙げていた空の脳裏に、ふいにある人物の後ろ姿が浮かぶ。


(岸波白野…彼女は残っているのかしら…)


本選だけでなく予選中の出来事もぼんやりとしていて思い出せないのだが、あの出来事だけははっきりと覚えている。今でも鮮やかに思い出せるくらいに。


(残っているといいんだけど…)


観測者としてあるまじき考えだろうが、彼女には残っていてほしかった。あれだけの強い願いを持つ彼女には。


(まあ、それは後々わかることね)


気持ちを切り換え、さて、と空は今後について考え始める。


(記憶は後で思い出す方法を探すとして…問題はこの服ね)


腕を持ち上げると袖に絡まる鎖がジャラ、と耳障りな音を鳴らし、空は顔をしかめる。


(元の服に戻そうとしてもできないし、『風愛する鳥(ウィンド・バード)』も出せないし…それに能力値が初期化されてる。拘束具と考えてよさそうね)


おそらくこの世界に連れてこられる際に強制的にこの服に変えられたのだろうが、気分はよろしくない。せめて袖に付いている鎖さえなければいいのだが。


(回りにまで音が響くのは迷惑だし、移動する時は霊体化しよう。自分が我慢すればいいだけだし…)


はぁ、とため息をつき空は立ち上がる。少しでも現状を詳しく把握するために、校内を回って情報を集めなければ。


(残っているマスターのことも分かればいいんだけど)


心の中で呟き、空は姿を消した。




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