落ちた先-2-

「月の裏側、ね…」


思案しながら空は頷く。
どこか懐かしい木造校舎の中を案内され、桜の持ち場である保健室に腰を落ち着けた空は、彼女からこの場所についての説明を受けた。ここは月の裏側で普通なら絶対入れない領域であること、この校舎はすでに使われなくなった空間(データ)であること、校舎にいる自分やNPC達は表側の世界で現れた黒いノイズに襲われ、逃げてここに辿り着いたこと。そして、その中にはマスターも数人いること。


(私に襲いかかってきた奴…あれは、アリーナにいる敵性プログラムとは少し違っていた。ならあれも、黒いノイズってことね…)


表の世界での出来事を振り返っていた空に、あの、と遠慮がちに桜が声をかけてきた。


「空さん」

「ん?どうしたの、桜?」

「私も一つ、お聞きしたいことがあるんですけど…空さんは聖杯戦争に関すること、何か一つでも覚えてますか?」

「え?」


唐突な質問に、空は驚く。しかも、その内容は聖杯戦争に参加しているなら、その関係者なら答えられて当然であろう質問。当たり前だと彼女の問いに答えようとしたところで、え…?と空は動きを止める。


「思い、出せない…?」


聖杯戦争を観測者として観てきたはずなのに、何故か、何故か思い出せない。まるで記憶に蓋でもされているかのような感覚。おかしいと思い、今度は集中して思い出そうと目を瞑る。その瞬間、意識を乱すかのように頭に鋭い痛みが走った。


「つっ…!」

「空さん!?大丈夫ですか!?」

「ん、大丈夫…。思い出そうとしたら、急に頭に痛みが走って…」

「無理はしないでください。…やっぱり、空さんも思い出せないんですね」

「やっぱり?」

「はい。目覚めたマスターの皆さんにも同じことを聞いたんですが、皆さん思い出せないようで…」


かく言う私も思い出せないんです…と桜は続ける。


「皆さん同様、私も記録の検索機能にロックがかかっているみたいで調べられなくて…」

「そうなんだ…」


何か思うことがあったのか、思案するように目を伏せていた空は口を開く。




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